盲導犬情報 第12号(1997年1月)



内容

・ニュージーランドの盲導犬
……兵庫県 川崎 千里
・イギリスにおけるアシスタンス・ドッグの現状
……日本盲導犬協会 朴 善子
・河相洌さんを講演会にお招きして
……兵庫県 仲佐 艶子
・使用者からのお便り
ローサと二人で房州野島崎の初日の出……茨城県 畔蒜 明
I Wonna be with Hanon. =大学卒業を目前にして= ………大阪府 仁枝 玲子
・盲導犬情報ボックス
犬に関する図書のご紹介(1)
・編集後記


ニュージーランドの盲導犬

兵庫県  川崎 千里(チサト)

海外の盲導犬事業については、佐々木たづさんの「ロバータさあ歩きましょう」でイギリスの盲導犬協会が紹介されていますし、アメリカの盲導犬関連の書籍が翻訳されていますので、ご存じの方も多いと思います。
  私は以前、あしかけ8年間北海道の盲導犬協会で仕事をし、その間に盲導犬と白杖の歩行指導員の資格を頂きました。その頃は海外の素晴らしい盲導犬の文献を読むにつけ、一度は盲導犬の本場で修行をしたいと、若さの情熱いっぱいで願っていました。その後、縁があってニュージーランドの盲導犬協会で、指導員としての仕事が与えられ、4年間、良い勉強をさせて頂きました。
  今回は使用者ではなく、指導員の目から見たニュージーランドの盲導犬事業について、その特徴的な点を簡単にご紹介させて頂きたいと思います。
  ニュージーランドは、治安の良い国として観光旅行の人気も高まり、ご存じの方も増えて来ましたが、つい最近までは、羊とキーウイフルーツしか思い付かないような、日本人にとっては、南の果ての小さな国だったようです。国土面積は日本とほぼ同じで、人口は30分の1以下の 350万人、北海道でも 600万人以上の人口ですから、かなり広々とした、牧歌的な風景をご想像いただければよいと思います。
  福祉国家としても有名なこの国では、ロイヤル・ニュージーランド・ファウンデーション・フォー・ザ・ブラインド(ニュージーランド視覚障害者協会、以下RNZFB)という団体が、この国唯一の視覚障害者のための施設として政府の補助を受けながら民間団体として活動しています。この協会では盲幼児施設から盲老人ホームまで、教育・リハビリ・援護と、まさにゆりかごから墓場までの、充実したサービスを行っています。もちろん盲導犬サービスもこの一環です。RNZFBの本部はオークランドにあり、国内の全職員とサービスの管理をしています。国内には12の支部が主要都市におかれ、各支部にはケースワーカー・カウンセラー・日常生活指導員・白杖歩行指導員等が配置されています。病院・福祉事務所・あるいは本人からの電話等での依頼があれば、ケースワーカーが本人を訪問し、専門指導員への紹介をはじめ、各人に必要なサービスが提供されます。また一度RNZFBの会員となった視覚障害者は、その時々に、主に接する職員が担当者となって、将来にわたりRNZFBのサービスを受け続ける事となるのです。
  ニュージーランドでは、どの地域に住んでいる会員でもサービスを平等に受けられるように、オークランド市内にある盲学校・リハビリ訓練所・盲導犬センターへの旅費も、RNZFBからすべて支給されます。しかし現在では、統合教育に見られるように、世界の流れは施設集中型から地域分散型に変化し、これがニュージーランドでも主流化しつつあります。盲導犬事業を例にとってみても、1991年には、全ての使用者が、オークランドの訓練所で共同訓練を受けていましたが、現在では、3か所の支部に盲導犬指導員が配置され、約半数の共同訓練が、使用者の生活地域の支部、あるいは使用者の自宅で行われるようになっています。この現地訓練を開始したことにより、子供が小さくて家を長期間留守に出来なかった母親、定期的に通院の必要な人工透析患者、家族にも指導が必要な低年齢児童、実際歩行する現場での指導が重要な盲聾者、長期訓練と訓練後のケアが常に必要な軽度知的発達障害者など、今までは訓練が困難とされていた使用者の訓練が可能となりました。家事に煩わされる主婦など、センターに入所したほうが訓練に集中できるという人達のために、入所方式も残させています。日本でも、使用者の高齢化に伴い、運動量を多く必要とするラブラドール・レトリーバーから、柔和なゴールデン・レトリーバーの性質を交配に使用することで、使用者のニーズに対応を始めています。このような、交配による、犬自体の質の改良はもとより、訓練方法の改良によってもさらに新たな使用者の可能性に挑戦しているのです。
  通常の盲導犬訓練に関しても、常に積極的に改良が続けられています。特に私が感心させられた事として、共同訓練を開始する前に、指導員が盲導犬を使用者の自宅へ届け、簡単な飼育方法と基礎的な管理の仕方だけを教え、2〜3週間ペットとして共に寝起きをしてもらうのです。外を歩く事はこの時点ではまだ禁止されていますので、通勤をしている人は、タクシーで犬と共に出勤します。この間に犬と使用者は愛情という絆で結ばれるので、共同訓練第1日目から犬は使用者の声に良く反応し、犬が訓練者に固執し、後ろばかりを振り返るようなこともなく、未知の人に命令をされるために起こる犬のストレスも少なく、順調に訓練が進みます。この事で訓練期間も3週間に短縮する事ができ、使用者の負担も大幅に軽減されました。
  もっと進んだ形では使用者がペットとして飼育していた犬を、適性が認められた場合に限り、盲導犬に訓練する事もあります。犬が少しくらい高齢でも、訓練時間が長くかかっても、盲導犬の原動力である、犬が使用者を群れの同志と認め、お互いの愛情や絆が、しっかりと出来上がっていますので、共同訓練が終了した時点から、盲導犬は非常に優れた誘導力を発揮します。同じ形として、使用者にパピーウォーカーをさせる事が、試験的に行われようとしています。もちろん成長した犬が使用者の性格や使用目的に合わない事もありますが、この形では使用者も犬の扱いに精通する事が出来ますし、すでに使用者と深い愛情関係で結ばれた犬を盲導犬に育てる事は、非常に有意義な事だと思います。
  この方法によって、主人が変わる事が苦手な種類の犬も、盲導犬として活躍する事ができ、使用者はより多くの種類の犬の中から、自分の好みにあった犬を選ぶ事が出来るようになりました。犬の毛に対するアレルギー体質の人は、毛の抜け落ちないスタンダード・プードルを採用する事で、盲導犬が使えるようになりました。
  この様にニュージーランドでは、より優れた盲導犬を、より多くの人に、より簡単にと、様々な新しい方法に積極的に取り組んでいます。海外の情報にも柔軟な姿勢で、日本では北海道盲導犬協会の両手持ち、関西盲導犬協会のタンデム歩行、アイメイトのフェッチなどが研究の対象になっているようです。
  このような姿勢は、訓練所側だけにあるのではなく、使用者側も研究熱心で、盲導犬についての文献や犬について、納得できるまで勉強をし、訓練所を共に伸ばすという積極的な態度で臨んでいます。
  世界的にも新しい、ニュージーランドのいくつかの試みについて、ご紹介させて頂きました。ニュージーランドは決して盲導犬の先進国ではありませんでした。つい10年ほど前までは、使用者は隣のオーストラリアまで盲導犬を取得するために出掛けなければならず、国内の作出頭数はわずか5頭前後でした。それが今、世界的にもすぐれた訓練所に成長したひとつの鍵は、就任した年に、まる4ヶ月をかけて、『使用者が何を盲導犬に求めているのか』、彼らを一人ずつ訪問して調査したという、現在の所長の盲導犬使用者を主体とした情熱と夢があったという事。そしてもうひとつは、自らが指導員であっても、経験豊富な指導員たちを更にイギリスから招き、非常に高い技術力と判断力を基礎とした討論が行える開放的な職場で、バランスのとれた改良を行った事にあると思われます。
  最後に、帰国後日本ライトハウスで、盲導犬の指導をさせて頂いていましたが、このたび一身上の都合で退職する事となりました。
  短い間でしたが、盲導犬を通じて知り合えた、素晴らしいユーザーの方々との出会いを感謝し、これからの糧とさせて頂きたいと思います。また全国の使用者の皆様のご活躍をお祈りして、お別れのご挨拶にかえさせて頂きます。

イギリスにおけるアシスタンス・ドッグの現状

日本盲導犬協会  朴 善子(パク ソンジャ)

1996年夏、私は動物行動学者のブルース=フォーグル氏に会うためイギリスを訪れました。彼はロンドン市内で開業している獣医師であり、犬の飼育に関する世界的なベストセラー作家でもあります。また、イギリスの聴導犬協会の創立者の一人でもあることから、私は英国聴導犬協会、同協会と関係が深い動物愛護協会の運営する不要犬の収容所でそれぞれ研修をさせていただく事が出来ました。その時の様子とイギリスにおけるアシスタンス・ドッグの現状についてご報告させていただきます。

皆さんは使役犬と聞くと、どんな犬をイメージされるでしょうか?
  使役犬とは人間のために働く犬ですから、皆さんが思い浮かべるのはまず盲導犬、そしてよくきくところで警察犬、麻薬探知犬。他にも、あの阪神大震災でも活躍した災害救助犬、介助犬、聴導犬と多くの犬達が活躍しています。その中でも、盲導犬や介助犬、聴導犬のように、飼い主と共に生活をし、その生活の手助けをする犬のことをアシスタンス・ドッグとかサポート・ドッグと呼びます。
  イギリスには、盲導犬協会・介助犬協会・聴導犬協会によって編成されたアシスタンス・ドッグス・UKという連合会組織があります。この連合会は互いに協力し合い、訓練の向上を図ることはもちろんですが、それ以上に社会への受け入れに対して積極的に働きかけてきました。私達盲導犬関係者にとっては先進国のイメージがあるイギリスですが、1頭目の盲導犬の育成時には反対運動が起こり、現在の日本と同様、犬に対する偏見や犬を溺愛するあまり盲導犬ユーザーに非難の矛先を向ける者までいました。盲導犬はその後イギリス社会に普及しましたが、公共施設への入場等は、依然盲導犬以外には認められていませんでした。しかし、この連合会が中心となって、介助犬や聴導犬にも門戸を開いてきたのです。

耳の不自由な方は、その障害が外見からは解りにくいため、まわりの人達から理解されにくいと言われています。私が訪れた英国聴導犬協会は、ロンドンから車で2時間ほどのオックスフォードという町にあります。広い敷地内にはレンガ造りの犬舎棟が点在し、将来の聴導犬たちが可愛い顔を覗かせています。協会が設立されてから現在までの15年間に 250頭の聴導犬が育成され、文字通り耳の不自由な方の生活の手助けをしています。その仕事の内容は、来客・電話・目覚まし時計等生活に必要な音や、火事・防犯ベル等の緊急音を飼い主に伝えることです。しかし、歩行中、車のクラクションの音等には反応させません。危険が伴うからです。彼らの仕事のほとんどは屋内の仕事に限られています。
  聴導犬協会のもう一つの大きな仕事の目的に、何らかの理由で飼いきれなくなった犬や捨て犬を救済するという事があります。盲導犬協会のように適性のある犬を自由に繁殖することは出来ません。設立するときに、その旨約束されているのです。ですから、聴導犬候補生達は、ほとんどが動物愛護協会が運営する不要犬の収容所などから送られてきます。
  もちろん聴導犬という目的があるわけですから、無差別に候補犬を選択するわけではありません。望まれないで生まれてしまった仔犬や4才位までの成犬に対し、キャラクターテストと呼ばれる性格テストを行い選んでいきます。犬種は、チワワ、テリア、ビーグルにボーダー・コリーと様々で、その様々な犬種の雑種もいます。ラブラドールの雑種もいましたが、大きな犬は扱い難いという理由から比較的小型な犬が好まれます。
  仔犬は盲導犬のようにパピーウォーカーに預けられますが、成犬の場合も将来聴導犬として室内の生活がうまくいくかどうかは大切なポイントですので、2〜3ヶ月はボランティアの家庭に預けられ、問題がなければ訓練に進みます。訓練の方法は、犬種や年齢によっても違いますので、ボランティアへの指導も広範囲な知識が必要となり、聴導犬の育成の難しさがここにあります。
  ところで、先に述べた候補犬を選択するために行われるキャラクターテストには、通常、仔犬用と成犬用があります。仔犬に対しては10項目程のテスト内容があり、仔犬が生まれながらにして持っている性格や、すでに学習してしまった癖、そのことから将来どんな性格の犬になるかの手がかりにしようというものです。
  日本盲導犬協会の場合は、仔犬の知らない場所(駐車場や仔犬が入ったことのない部屋)で、仔犬の知らない試験官(この場合は協会職員)がテストを行います。まず、仔犬を驚かさないように床に置き、名前を呼びながらその場を立ち去ろうとします。仔犬がチョコチョコとついてくれば良し。犬の鳴き声や踏切の音などのテープを聞かせ、仔犬に怯えた様子がなければ良し。仔犬の身体をそっと持ち上げ4つの足が床から数センチ浮くように固定した場合、仔犬は嫌がりますがしばらくしてあきらめれば良し。と言った具合にテストは進んでいきます。このテストの結果を繁殖ボランティアの意見とつき合わせ、その後、パピーウォーカー宅へ預けるかどうか、どんな家庭(たとえば子供がいるとか年配のご夫婦だとか)に預けるのかが決定されます。
  ここで行われている仔犬のテストもこういった内容で、聴導犬、盲導犬、家庭犬ほとんど同じですが、成犬のテストの場合は、仔犬のテストのように画一的ではなく様々な方法があります。盲導犬協会のように一定の期間犬を訓練所で飼育している場合は、その間の生活状況全般からその犬の性格や癖を把握していけばいいのですが、不要犬収容所では、毎日収容されてくる犬を短期間で聴導犬や家庭犬、中には安楽死させるという決定を下さなければならないのです。そういった場合のテストの方法をご説明します。
  テストは、仔犬の場合と同様、知らない場所で知らない人が試験官となります。犬の様子から攻撃性のあるものとないものを見分けます。シェパードやピットブルは要注意で、多くの雑種の中にはこれらの犬種の血を引くものも多く、一見それとは分からない容姿のものもいます。攻撃性のある犬は紐でつなぎ、その前を試験官がゆっくりと歩きます。次に犬の前に立ち、犬を見つめ、攻撃の準備をするか確かめます。気の強い犬はこの時点で襲いかかってくるものもいます。攻撃性といってもその対象物は様々で、子供のように奇声を発しながら騒ぎ立てると攻撃してくるものや、人には友好的であっても犬に対してはそうでもないものもいます。多くの攻撃性のある犬は安楽死させられますが、中にはイギリス空軍に引き取られていくものもいます。
  攻撃性のない犬の多くは一般家庭に引き取られますが、その家庭環境は様々です。例えば犬を床に寝かせて優しく全身を撫でてやります。一見犬は嬉しそうにしていても犬の身体が筋肉の硬直によって固ければ、突発的な動きをする子供のいる家庭には預けられません。人に対して友好的でありよく指示に従う犬でも、つないで無視すると注意をひこうとして騒ぎ立てる犬は、留守がちな家庭には向きません。このような犬は、引き取り者が高齢であっても誰かがいつもいる家庭の方が良いのです。物静かで何の問題もない様に見える犬でも、その目が赤く見える犬は、実は興奮しているかもしれません。テストは繰り返し行われ、犬と引き取り先の家庭とのマッチングが決定していきます。
  イギリスの盲導犬協会と介助犬協会は、同じ敷地内にあることからも分かるように、特に強い共同体制がとられています。たとえば、盲導犬には不適格になるような少し元気過ぎる犬であっても大変訓練性能のよい犬は、介助犬協会へ提供されます。1年間に30頭以上の犬が成功率75%以上という高い確率で介助犬になっています。

私は高校生のころ盲導犬のパピーウォーカーをしたことが、後々日本盲導犬協会に就職するきっかけとなり、現在は訓練所の現場監督(?)として働かせていただいております。就職当初の業務内容は、事務とパピーウォーカーへの指導でした。1頭でも多くの盲導犬を育成するためのパピーウォーカー・システムを確立するため、多くの方がそうであったように、私も盲導犬の先進国であるイギリスやアメリカに羨望の眼差しで、多くの答えを求めていました。
  実際、イギリスやアメリカの盲導犬協会への訪問や関係書籍は、未熟な私達協会職員にとっては大きな指標となり、それは現在も変わりありません。しかし、その素晴らしいパピーウォーカー・システムは、そのまま日本の現状にパズルのように当てはめることは出来ませんでした。海外でのすばらしい研修を体験すればするほど、日本との違いを肌で感じ、それと同時にどうすればその方法を現実のものに出来るかが問題でした。日本はまだ、盲導犬である犬そのものを社会に受け入れる準備が出来ていません。日本の盲導犬が早く先進国の仲間入りが出来るよう、それぞれの立場で出来ることから努力していきましょう。

河相(カアイ)洌(キヨシ)さんを講演会にお招きして

兵庫県  仲佐 艶子

「盲導犬の理解を深める会」は、神戸市内に事務局を置き昭和56年に発足しました。主に兵庫県在住の盲導犬使用者と会の趣旨に賛同してくださる晴眼者が会員となって、市民への啓発活動や会員同士の親睦を深めたり、情報交換をすることを目的として活動をしています。
  昨年10月20日には、多くの市民の方にもっと盲導犬の仕事や、共に生活している視覚障害者の様子を正しく理解してもらおうと講演会を催しました。講師には、「ぼくは盲導犬チャンピイ」の著者で、日本で初めて訓練された盲導犬の使用者としても知られる河相洌さんをお招きし「盲導犬・今と昔」というタイトルで講演していただきました。今回は、その講演会の様子をご紹介したいと思います。
  この日はとても良いお天気に恵まれた一日でした。選挙の投票日と重なり、またあちらこちらでいろいろなイベントが開催された日曜日であったにも関わらず、たいへん多くの方々が足をお運びくださいました。正確な人数はわかりませんが、少なくみても 260、70人は座られている様子です。とっても嬉しい限りでした。会員の中にも京都から滋賀からお友達を誘って来てくださった方がいらっしゃいました。
  講演の内容をご紹介しますと、「盲導犬・今と昔」というタイトルの通り、河相さんご自身の歩行の手段として盲導犬を選択したきっかけやいきさつ、チャンピイやチャンピイを訓練した塩屋さんとの出会い、現在においては褒め方、叱り方を含めて使用者自身の犬のコントロールの仕方について、未来に向けては盲導犬としての犬自体の素質の問題、あるいは訓練方法に対する疑問点、また盲導犬を育成する能力をしっかり身につけた優秀な訓練士を養成することの重要性について。そして一般の方々へは、もちろん善意からの行動であることはわかっているけれども過剰な手助けは不必要であって程良い手助けをお願いしたいということや、盲導犬への接し方などなどを物静かな語り口調で淡々と無駄のない的確な言葉で、とてもわかりやすくお話ししてくださいました。
  質問コーナーでは、犬がとても好きな方であることが伺える男性から「このような献身的な姿を見るとつい涙がこみ上げてしまうのですが、ハーネスをつけて誘導しながら歩く事を犬達は本当に喜んでしているのでしょうか」と声を詰まらせながらあたたかい問いかけがあったりして、胸に熱いものを感じたのはおそらく私だけではなかったと思います。そんな感動的な場面もあり、とてもいい講演会でした。
  河相さんは静岡県立浜松盲学校に永年勤務されていたのですが、実は私にとっては、その時に英語や政治経済を教えていただいた先生だったのです。一年間は担任の先生だったこともありました。いつも冷静で厳しかったけれども、すごく心根の優しい、その上スタイルも良くて容姿ともにとってもすてきな先生でした。当時の授業風景が昨日のことのように思い出され、学生時代に戻ったような気分にもさせていただけて、私にとってはより一層心地よい貴重なひとときでした。
  講演を録音したテープがあり、お聞きになりたい方には貸し出しをしております。希望される方は盲導犬情報室までハガキでお申し込みください。

使用者からのお便り

ローサと二人で房州野島崎の初日の出

茨城県  畔蒜(アビル) 明

「房州白浜住み良いところ、冬に菜種の花盛り」と歌われる房州白浜は、いま街中花盛りだ。菜の花はもちろん、ポピー、ストック、金魚草、キンセンカなどである。
  東京駅から京葉線経由特急「さざなみ」で館山まで約2時間。館山駅からJRバスで約40分で白浜町に着く。木更津を過ぎると列車は急速に右へ曲がるのがわかる。方位磁石を押してみる。これまで東を報知していたのが、南を報知する。窓から差し込む光は春のようだ。首に巻いたマフラーを取る。
  館山から白浜に行くには3路線のコースがある。海岸周り、山の手周り、中周り。海岸をまわるフラワー号は、景色はよいが時間もかかるし料金も高い。
  白浜町は人口6千人足らずの小さな町であるが、年間を通して霜も降らないという温暖なところだ。旅館、ホテルが30軒、民宿にいたっては 150軒もある。それらの中には盲導犬を受け入れてくれる所も結構あるようだ。館山には国民宿舎や自然の家など、公共の宿もある。
  野島崎灯台の日の出は、富士山、銚子に続き最も早い時間だ。灯台に問い合わせると6時48分とのことであった。私は6時20分に宿を出た。何度も来ているので私もローサも道順はよくわかっている。
  灯台の入り口に着くと沢山の車と人の声だ。東京から来たという青年が最も見やすい場所に誘導してくれた。そこにも既に沢山の人がいる。右手の海は波一つない。名の知らぬ小鳥のさえずりが聞こえる。
  日の出の時刻が近づく。私は東の空に顔を向けて初日が我が顔に差し掛かるのを待った。薄い雲があると言う。隣にいた中年の女性が私に教えてくれた。ローサも嫉妬して東の方向を見ているようである。
  6時48分、太陽はまだ出そうもなかった。6時58分、一斉に拍手がおこった。シャッターをきる音があちこちから聞こえる。だが私の顔にはまだ何も感じない。さっきの女性が「上の方が真っ赤で下が真っ黒ですよ」と教えてくれた。私は初日は見えなかったものの、ローサがいるおかげで大勢の人の中に混じり野島崎の初日を拝めたことの喜びは何にも代え難いものだ。
  ローサは知らない人からあれこれ声をかけられる。「えらいねぇ」「お利口だねぇ」いつも褒められるのはローサばかりだ。
  昨年は私は3ヶ月もの間入院を余儀なくされたし、暮れになってローサはしっぽに腫瘍ができ手術をした。今年こそ共に健康で暮らせるようにとそんなことを思いながら、大勢の人の中を私は足どりも軽くハーネスを握りしめるのであった。

I wonna be with Hanon.

=大学卒業を目前にして=

大阪府 仁枝(ニエダ) 玲子

あーあ、あっと言う間に四年間が過ぎてしまいました。うち三年間は相棒のハノンとの楽しい生活でした。と言っても楽しいことだけじゃなくていろんなことがありましたけどね。
  ハノンが来たばかりの二年生の時には自宅(西宮市)から大阪府堺市の大学まで電車通学してましたから、電車の乗降やホームでの歩行の時によく失敗していたことを覚えています。たとえば、ある日のこと、電車に乗ろうとしたとき車内に私の友だちを発見したハノンはあわてちゃって後ろ足を踏み外しちゃったんです。そうなると前足を車内にひっかけてホームに座り込んでるような格好になるんですけど、それでもハノンはしっぽを振って友だちに愛想をしていたりして、そのくせその後は一日中しょぼくれてて私は自分の犬のことながら「盲導犬てもっとカッコよくなきゃいけないんじゃないのかな ・・・」なんて不安を感じたこともありました。
  三年生になると、大学が大阪府和泉市に引っ越したということもあって一人暮らしを始めたんですけど、一人暮らしをするとハノン(盲導犬は多分みんな)は自分にとってどれだけ大きな存在なのかってことをあらためて知らされました。だって、24時間体制のガイドヘルパーであるうえに時にはセラピストの役目も果たしてくれるんですから。ハノンっていうのはいつもは学校から帰るとすぐ「あーあ、今日も一日よく働いた」って感じでゴロッと横になっちゃうんですけど、たまに私がすごく疲れてたり落ちこんでたりすると「おねえちゃん大丈夫?私がそばにいるからね」とでも言いたげにずっとそばについてまわって離れないんです。そんなハノンの姿を見て(「感じて」かな?)いると「私がしっかりしなきゃ。元気出さなきゃいけないわ」って思えて来るんです。そう考えると、ほんとに盲導犬って一頭で何役もこなしてますよね。ハノンがいたからこそ私は二年間の一人暮らしを「さびしい」なんて一度も感じずにエンジョイできたんだと思います。
  さて、四年生になると、私は四週間の福祉の実習に行ったんですが、さすがに養護施設(子供の施設)での泊まり込み実習にハノンを連れていくことは出来なくてまる一ヶ月間ハノンと離ればなれになってしまったんです。「センターに預けている」という安心感はあるんですけど、やっぱり左側の空間が気になってしかたがない。だから一ヶ月ぶりに会った時にはハノンはもはや私にとってはなくてはならない相棒になっているのだと痛感しました。
  でもハノンとのつきあいは未だたったの三年。私が社会に出ていくこれからが私たちのパートナーぶりが本当に試されるのではないかと思います。

盲導犬情報ボックス

犬に関する図書のご紹介(1)

盲導犬情報第10号の中で「何か犬に関するおススメの本があればお知らせください」とお願いしたところ、お二人から連絡をいただきました(ちょっと淋しい ・・・)。まとめてお知らせするには少ないかなとは思いましたが、一度ご報告しておかないとこんなお願いをしたことすら忘れられそうですので、3冊だけですがご紹介します。引き続き、読者の皆さんからの情報提供をお待ちしております。

  『デキのいい犬、わるい犬』 スタンレー=コレン 文芸春秋社
使用者評「外国犬種の特性がわかっておもしろい」
(点字図書・録音図書ともになし)
  『愛犬物語』 ジョージ=ヘリオット 集英社
使用者評「獣医からみた人と犬の関わりについて、盲導犬も含めて書かれている。また犬の病気についてもわかるので参考になった」
(録音図書のみあり)
  『犬のディドより人間の皆様へ』 ディド 協力者チャップマン=ピンチャー 草思社
使用者評「ラブラドールの特性についてもわかる」
(点字図書・録音図書あり)

編集後記

いつもより大幅に発送が遅れ、皆さんのお手元になかなか届かなかったことをお詫びいたします。「いつ来るのかなあ」と待っていてくださった方、「そういえばまだ読んでないけど、どうしたのかなあ」と思ってくださった方、まことに申し訳ありません。届いてから「そうそう、こんなものも送られて来てたっけなあ」と思った方、今年こそは貴方にもっと身近な『盲導犬情報』にしたいと思います。えっ、誰ですか!読みもせずに古紙回収に出してしまったのは・・・。
  ところで次号がでるのは4月の末ですが、この頃多くの使用者を悩ませるのは、犬の抜け毛に関することではないかと思います。いくらブラッシングをしていても毛は抜け落ちやすいですし、そのブラッシングだって庭付き一戸建てに住んでいる方はともかく、団地やマンションなどではその場所の確保さえままなりません。そこで、特にそういった集合住宅にお住まいの方が工夫している点、特に注意していることなどありましたら教えてください。もちろん一戸建てにお住まいの方も、抜け毛対策などについてお便りいただければありがたいです。(久保)