盲導犬情報 第18号(1998年7月)



内容




盲導犬使用者のバス利用について

私のトラブル体験

名古屋市  小林 誠

私は盲導犬を使用するようになり12年になる者です。今回私が体験したトラブルについて書かせていただきたくペンをとりました。
  それは5月のある日曜日。その日は朝から雨降りで、傘をささなくても歩ける程度の雨が降り続いていました。
  私は外出先から自宅に帰るため、いつも利用しているターミナル駅の名古屋市バス乗り場でバスを待っていました。やがて数分後にバスが到着し乗り込み空席を見つけ座ろうとした時、運転手から
「ちょっと盲導犬のお客さん」
と呼ばれました。「なにか落とし物でもしたかな」と思い運転手の所へ行ったところ、
「雨の日には盲導犬同伴での乗車はだめだよ」
と言われました。
「なぜですか?」
と尋ねると
「床が濡れて他のお客さんが転ぶといかんから ・・・」
と言われたのです。私は
「犬用のレインコートも着せていますし、乗車前にはタオルで水分は拭き取りましたから大丈夫だと思います」
と説明をすると
「でも規則だから ・・・」
と言われました。少々頭にきた私は
「それでは傘を持ったお客様も乗れないわけですね」
と言うと運転手も頭にきたのか
「とにかく下りてくれ」
という何とも腹立たしい言葉が返って来ました。
  私自身も「これ以上わからずやな運転手と言い争っていても仕方がない」と思い、発車時刻も迫っていたため他の方の迷惑になってはいけないと思い、下車して20分後のバスに乗りました。そのバスの運転手は何も言わず乗車させてくれました。
  その後名古屋市交通局に問い合わせたところ、たしかに昭和56年に出された通達の中に「雨もしくは雪の場合は原則として盲導犬同伴での乗車は控えること」という規定があることがわかりました。名古屋市交通局側の言い分はやはり「床が濡れたりして他のお客さんが転ぶといけない」というもので、私が運転手に話したように
「それでは傘を持った人も乗れないのではないですか?」
と質問をぶつけると
「現場の運転手じゃないから、どうしてそういうことになったかわからない」
と言うのです。さらに交通局の方は
「失礼ですが、お宅がその場面をみておられたのですか?それとも当事者ですか?」
と尋ねてこられたので
「当事者です」
と言うと、手のひらを返したように態度が変わり
「申し訳ありませんでした。以後そういったことのないよう気を付けさせます」と言い出してしまったのです。
  一方、名古屋の市営地下鉄についてもどうだろうかと思い問い合わせをしたところ、地下鉄に関してはいっさい天候による乗車制限はありませんでした。
  同じ名古屋市が経営する公共交通機関でありながらなぜこんなに違うのだとさらに疑問に思い、再度市バス部門に問い合わせをし
「床が濡れて危ないと言うのであれば地下鉄も雨天時などの乗車を控えるようにと言う規定がなくてはおかしいではないのか。なぜバスは原則として駄目で地下鉄はいいのか。同じ名古屋市の経営する公共交通機関でありながらおかしいのではないか」
と質問をぶつけると長い沈黙の後
「バスと地下鉄とでは担当部門が違うからよくわからない。バスの運転手が乗車拒否をしたのは運転手が犬が嫌いだったからじゃないですか?」
と無責任というか、もう怒りを通り越しあきれてしまうような返事が返ってきたのです。
  私は「この問題は個人で動いてもどうにもならない」と思い、出身訓練所である中部盲導犬協会へ相談をしました。さっそく協会側からも交通局側と交渉をしていただきました。驚いたことに名古屋市交通局が協会に話した回答は
「今時雨降りや雪の日に乗るのを控えなさいと言うのは時代遅れだから遠慮なく乗車してください」
という返事だったのです。
  この盲導犬情報を読んでおられる使用者の方、また盲導犬訓練士の方々は今回のこの出来事をどう思われますか?そして当事者に対する態度と盲導犬協会に対する態度の違い。それは一体何なのでしょうか。
  その後も個人的に地元の民営の路線バス会社や東海地区の地方自治体が運営するバスについて尋ねてみましたが、名古屋市営交通のような「雨または雪の日には原則として乗車は控えるように」などという規定を設けている会社はありませんでした。
  今回のトラブルを通し一番感じたことは行政の対応よりも、私たち盲導犬ユーザーがいつ、どこで、どんな事態に直面しても「私のパートナーは大丈夫です」と言えるような備えと躾をしておかなくてはならないということです。表現は適切ではありませんが、私たち盲導犬ユーザーは「歩く広告塔」のようなものだと思います。

その後の経過:本日(1998年6月10日)、名古屋市交通局ならびに中部盲導犬協会所長より連絡があり、「雨天時または雪の日には盲導犬の車内持ち込みを原則として控えるように」という名古屋市交通局自動車部より出されていた通達は、関係者の方々のご努力のおかげで撤廃される方向で検討が進められることとなりました。
  また名古屋市の場合、ガイドヘルパーを盲導犬同伴で利用する場合、「初めての所へ行く場合で初回のみ」という制限がありましたが、これも関係者の皆さまの努力の結果、白杖使用者と同じように利用できることとなりました。
  ガイドヘルパーの利用につき盲導犬使用者に対する制限があった理由は、「盲導犬がどこにでも連れて行くのだからガイドヘルパーがいるのと同じ」という誤った認識が行政側にあったからで、今後盲導犬をアピールしていくうえで「盲導犬をコントロールするのは視覚障害者であって、コントロールする側の頭の中に地図が入っていないと歩けないんだ」ということを一般社会に理解してもらうことも重要なことだと感じます。
  盲導犬はきちんと訓練され視覚障害者の大切な強力なパートナーということはかなり社会にも浸透したように思うのですが、スーパードッグ的要素ばかりが広がりつつあるのでユーザーとしてはうれしい半面素直に喜べない心境です。

公営バスでの盲導犬取り扱い基準について

盲導犬使用者のバスの利用に関しては、運輸省から「旅客自動車運送事業等運輸規則」や「盲導犬を連れた盲人の乗合バス乗車について」という運輸省地域交通局長通知が出されていますが、これらの規則・通知とは別に、公営民営を問わずバスを運行していく上で、公営交通局や各バス会社独自の運送約款というものが決められているそうです。また、公営バスの場合は、運送約款の他に乗車細則というものが設けられており、今回の小林さんの体験された乗車拒否の根拠となったものも名古屋市交通局として定めた規則の中に「雨もしくは雪の場合は原則として盲導犬同伴での乗車は控えること」という一文があったからです。

そこで、この問題は名古屋市だけのことなのかがふと心配になり、ちょっと調べてみることにしました。今回は都営、県営、政令指定都市の市営、県庁所在地の市営バスに限って電話で問い合わせてみたところ、名古屋市の他にも1都1県8政令指定都市9市で公営バスが運行されていることがわかりました。このうち、盲導犬の取り扱いについては旅客自動車運送事業等運輸規則に準じている、あるいは前述の運輸省地域交通局長通知に従っており規則の中で特に制限など設けていない、といった回答があったのは、1県4政令指定都市8市。
  また東京都交通局の「運輸職員の手引」では、「盲導犬随伴乗車取扱基準」の中で「取扱上の注意」として

といった、盲導犬そのものではなく視覚障害者に配慮すべき点を明記してありました。
  中には「盲導犬携行者を、一般乗客の乗降等に支障のない場所に着席させるとともに、「ただいま盲導犬が乗車しましたが、危険ではありませんので、皆さまのご理解とご協力をお願いいたします」の職務用語により、他の乗客に知らしめること。」「座席に空席がない場合、「お席をおゆずりくださるよう、お願いいたします」等、他の乗客に協力を依頼すること。」という局内通知を出している交通局もありましたが ・・・。
  しかし、3政令指定都市1市では盲導犬使用者の乗車に関して何らかの制限等を設けており、今回のトラブルが名古屋市ではなく他地域でおきてもおかしくはなかったことがわかりました。以下にその内容を簡単にまとめると、

これらの制限の他にどういうわけか、2政令指定都市では「財団法人日本盲導犬協会に登録されている盲導犬であること」「日本盲導犬協会調製の証明書を所持するもの」という記述がありました。この点に関して、電話で応対して下さった職員に
「他の盲導犬協会で歩行指導を受けた盲導犬使用者は、バスに乗れないのでしょうか?」
と尋ねたところ
「そういう組織的なことはこちらではわからないので ・・・」
という答えが返ってきました。
  また、盲導犬が車内において「損害を与えた場合は、持込者の責任とし、その損害額を弁償しなければならない」とか「その使用者及び盲導犬協会が一切の責任を負う」という文章もありました。

「まあ規則とはいっても、実際は支障なく乗っていただいているわけですから」
と言う交通局職員の方もおられましたが、実際その規則で乗車拒否が起きているわけですから、それで安心もしていられません。現実に即した規則になるよう、関係者の方々のご協力を得たいところです。また、情報室では、今後も他の地域の公営バスや民間バス等について継続して調べていきたいと考えています。

盲導犬情報ボックス

盲導犬使用者のバス利用に関する規則・通知

運輸省は昭和31年8月1日に「旅客自動車運送事業等運輸規則」というものを発令しています。その規則の中の盲導犬に関する記述部分は、「第5章 旅客」の中にあり、
(物品の持込制限)
第52条 一般乗合旅客自動車運送事業者の事業用自動車を利用する旅客は、次に揚げる物品を自動車内に持ち込んではならない。
として15項目があげられている内の13番目に「動物(盲導犬及び愛玩用の小動物を除く。)」となっています。
  また、昭和53年3月27日には「盲導犬を連れた盲人の乗合バス乗車について」として社団法人日本バス協会会長あてに運輸省自動車局長通知が出され、その中で乗車できる盲導犬の条件として

  1. 盲導犬であることの証明書を携帯し、盲導犬にハーネスを装着していること。
  2. 車内では一般乗客の乗降等に支障のない場所に着席すること。
  3. 当該路線に常時乗車していること等により一般乗客の理解が得られている場合以外は、原則として盲導犬に口輪を装着すること。
  4. 車内放送、掲示等により安全かつ円滑な輸送の確保について周知徹底に努めること。

という項目が挙げられています。
  その後、昭和61年3月31日をもってこの通知は廃止され、現在は昭和61年2月19日付けの同じく「盲導犬を連れた盲人の乗合バス乗車について」という社団法人日本バス協会会長あての運輸省地域交通局長通知が運用されています。
  新しい(と言っても12年前ですが)通知は、「盲導犬を連れた盲人の乗合バス乗車の機会が多くなっていることに鑑み、今後下記の基準で運用することとしたので、この取扱について円滑な実施を図るとともに、盲人の乗合バス乗車について車内放送、指示等により安全かつ円滑な輸送の確保について周知徹底されるようお願いします。」とあり、取り扱い基準として

  1. 盲導犬であることの証明書及び口輪を携帯し、盲導犬はハーネスを装着していること。
  2. 車内では一般乗客の乗降等に支障のない場所に着席すること。
  3. 盲導犬には口輪の装着を必要としないこと。但し、車内混雑時等一般乗客の理解が得られない場合は、必要に応じ、装着を求めること。

となっています。

盲導犬連れの海外ツアー5回の実施報告

−参加者 123名、海を越えた盲導犬28頭−

トベルデザイナー おそどまさこ

【はじめに】

1995年2月、私は「視覚障害者にやさしいフランスツアー、パリ・ニース7日間」を企画し、JTBの池袋支店の旅行主催のもとに、盲導犬4頭、全盲者6名、弱視の人3人と共に総勢20名で、パリ・ニースを5泊7日で旅してきた。この盲導犬も連れていく海外ツアーは日本初の試みであり、盲導犬同行の海外旅行が不可能ではないことを社会に示すことができ、意義深かったと思う。と同時にツアーの定番化をめざす足がかりになった。
  盲導犬が国際航空運賃が無料であるにもかかわらず、それまで盲導犬同行の海外ツアーが企画されなかったというのはなぜだろうか。

盲導犬と共に行く海外ツアーの意味を整理しておきたい。
  それは、大きく三つある。

  1. 盲導犬同行の旅は、国内外の検疫手続きが複雑で、その情報も未整理であり、現地に出かけて体験してみないと、次の人へ旅の正しい情報と可能性を伝えることはできない。ツアーがその取材を兼ねている。
  2. 生活介助を必要としない、身の回りのことは自分でできる視覚障害者が盲導犬と共にツアーに単独参加できれば、2倍の費用を払って介助者を連れて行かなくてもすむ道が開かれる。
  3. そして、少し前から、私は検疫の問題で入れない国に、検疫緩和を呼びかけ、促す役割を盲導犬連れの海外ツアーはやってみてもいいのではないか、と考え始めたのである。ツアーが視覚障害者の旅の可能性を開き、検疫で入国ができない国々にも盲導犬を連れて入国する、つまり世界旅行のできる範囲を広げることができたら、どんなにすばらしいだろうか。

ということで、1988年3月に実施した、盲導犬を連れていく視覚障害者にやさしい海外ツアーシリーズ第5回では、英国に盲導犬連れで入国するチャレンジを試みたわけである。

【盲導犬も連れていく視覚障害者にやさしい海外ツアーシリーズ実施実績】

  参加者総数 123名 海を越えた盲導犬は28頭

第1回.パリ・ニースの旅7日間(95年2月実施)
参加者数18名 全盲者6名 弱視者3名 晴眼者9名 盲導犬4頭
第2回.ミュンヘンのビール祭りからオランダの女王様の金の馬車のパレードまで旅する8日間(95年9月実施)
参加者数26名 全盲者8名 弱視者2名 車いす者2名 晴眼者14名 盲導犬3頭
第3回.ナイアガラの滝、ニューファンドランド そしてサンフランシスコの金門橋を歩いて渡る9日間(96年5月実施)
参加者数23名 全盲者11名 弱視者2名 車いす者1名 晴眼者9名 盲導犬7頭
第4回.スイスの山岳救助犬セントバーナード犬と温泉、ヴェネチアでゴンドラに乗り、ミラノでちょっとショッピングする8日間(97年6月実施)
参加者数34名 全盲者18名 弱視者5名 杖使用者1名 晴眼者10名 盲導犬9頭
第5回.「ユーロスターでパリから英国入国にチャレンジ&スペイン・ヴァレンシアの火祭りと闘牛・フラメンコ、そしてスペイン国立盲人協会(ONCE)も訪問する10日間」(98年3月実施)
参加者数22名 全盲者9名 弱視者1名 晴眼者12名 盲導犬5頭

*このほかに、毎回旅行会社内部社員を添乗員としてつけ、トラベルデザイナーのおそどまさこが同行している。

【1998年春 英国に入国チャレンジした報告】

1997年の5月の末から私は取材のために英国に半年間滞在した。その間、英国における障害者も高齢者もすべての人が旅立てるための運動、ツーリズム・フォー・オールがどのように実行されているのか、ロンドンから鉄道で1時間ほど西に行った北海沿いの村ウィヴェンホーに家を借り、週に1回ロンドンへ出かけ、自治体や民間チャリティ団体の取り組みを取材したのである。その間に日本で企画していった3つのツアーに現地から同行した。
  出発前にブレア内閣発足当時の新聞記事を私は持っていた。まずブレア内閣の閣僚の中に盲目で盲導犬を使っている教育雇用大臣ブランケット氏がおられるのに注目した。しかし、彼の住所がわからない。ロンドンの毎日新聞支局に知り合いの記者がいるので、彼にコンタクト先を教えてもらうことにした。マスコミ嫌いな人で、返事はくれないだろう、と言われた。ダメで元々、97年の8月14日、手紙を投函した。内容は以下のようなものである。
  「私は日本のトラベルデザイナーで、98年の3月に盲導犬使用者たちを連れて英国に旅したいと思っている。私はパリからロンドンにユーロスターで彼らを連れて、ロンドンには数日間滞在し、盲導犬使用者と交流したいと思っているのです。しかし、現在、英国に入国したい動物は、盲導犬であっても、6ヶ月の検疫期間が義務づけられています。ですから、ロンドンに短い滞在もできません。盲導犬はあなたもご承知のように他のペットとは全く違うと思います。盲導犬は世界のどこまでも航空運賃が無料ですし、飛行機の中では使用者の足下に座ります。ペットはこのようなことは許されません。そして、私たちの盲導犬は以下の予防注射を行っています。狂犬病、七種混合ワクチン、ジステンパー、伝染性肝炎、伝染性咽頭気管炎、パラインフルエンザ、パルボウィルス感染症、レプトスピラ病カンコーラ型・黄疸出血病など。それに2〜3ヶ月に1回は健康診断を受けているのです。(以下中略) 今までにこのツアーで盲導犬を連れて入れた国はカナダ、アメリカ合衆国、スイス、オランダ、ドイツ、オーストリア、イタリア、フランスですが、盲導犬が検疫上の係留期間などの理由から、旅目的で入国することが難しい国がまだ世界中にたくさんあります。英国もその一つです。
  どうか、この機会に、日本の盲導犬とユーザーが英国に滞在訪問できるよう、ご尽力いただけないでしょうか。これをきっかけにして、前例を作り、多くの盲導犬使用者が自分の行きたい国に旅ができるようにしたいものです。よいお返事を待っております。おそどまさこ」
  ファーストクラス郵便で投函したところ、ほぼ1ヶ月後に直筆サインの返事を受け取った。その内容は心温まるものではあったが、「自分も海外に行くときには愛犬をおいて旅している状態であり、法律を変えることは私に魔法の杖がない限りできないと思われる。皆様の旅がすばらしいものになるようにお祈りします。」
  断られたものの、きちんと返事をくださり、私はこの国に盲導犬を連れてなんとかはいれないものか、とますます思うようになった。
  ツアーの方はとにかく、旅行会社の担当者と協議して、盲導犬とユーザーが離ればなれになるのは、1日が限度だろうから、英国に盲導犬連れで入れなくても大丈夫な状態でツアーを企画することで一致し、ロンドンへは、朝早くパリの北駅を発って、ロンドンのウオータールー駅までユーロスターに乗って日帰りの旅をすることにした。ロンドンまでは、片道3時間の行程である。
  10月に入った頃、英国に滞在する私にあてて、友人より英国の新聞記事の切り抜きが送られてきた。
  それによると、英国の動物検疫が簡素化される可能性が出てきたとのこと。近い将来、動物にもパスポートを与えるとの情報だった。
  そこで、次は担当閣僚の農林水産大臣のカニンガム氏に、さらにダメでもともと、トニー・ブレア首相にも同じ内容の手紙を送ってみようと考え、10月21日に投函した。
  その結果、10月25日付けで、ブレア首相の私設秘書のアシスタントから、できるだけ早く返事が届くでしょうとのFAXを受け取り、農林水産大臣のカニンガム氏の私設秘書からの11月25日付けの手紙では、6つの選択肢が示され、ECに準じる方向性も示されたが、だからといって、なかなかすぐには盲導犬の英国入国がOKになるとは考えにくい内容だった。
  結局ツアーでは、盲導犬が入国できなければ、盲導犬たちはパリのホテルで留守番してもらい、人だけ英国へ日帰り入国することにした。
  盲導犬連れでの英国入国は無理であっても、なにかこのツアーにとって明るい兆しはみえないものか。思案した結果、1月に入り、再びブランケット氏に手紙を出した。
  「私たちのツアーでは3月14日の午前にウオータールー駅に到着します。そして、夕方まで時間があります。もし可能ならば、あなた様を表敬訪問させてもらえませんでしょうか。10分でもよろしいのです。」
  1ヶ月後に返事をもらえるのではないか、と期待したが、結局ブランケット氏からの2通目の手紙を受け取ることはできなかった。
  まあ、突然日本からの団体が会いたいと言っても、困るわけで、そのことはわかっていたが、とにかくやってみるだけやってみたということである。

【3月14日、英国入国のこと】

早朝、宿泊先のホテルパリのロビーに、盲導犬ユーザー4名と盲導犬が集合した。そして、旅行手配会社のアシスタントと共にタクシーに分乗して、ホームステイ先にでかけた。動物ホテルに預けることも検討したが、夜遅く迎えに行けないなど無理が利かない点、また他の動物との遭遇もあまり良くないだろうとの考えから、苦肉の策のホームステイという道を選んだ。ホテルで、誰かがめんどうを見ることも考えた。添乗員が残るわけにもいかないし、慣れていない人では、難しい。なぜか、ホテルからも断られたという話を間接的に聞いている。とにかく、盲導犬はパリのフランス人の家庭に預けられた。そして、夜10時過ぎにロンドンの1日観光から戻り、パリの北駅に着いたが、旅行会社のアシスタントが二人で4頭の盲導犬たちを連れて迎えに来ていた。この時の光景は忘れられない。それぞれのユーザーと盲導犬たちは、飛びついて、抱き合って、キスして、待ちこがれている恋人同士が久方ぶりの再会を果たしたようだった。

*盲導犬を連れて英国入国はできなかったが、手紙を書くと閣僚から返事をいただけるというのは、私にとって新発見だった。そして、ツアーを実施することで盲導犬の入れる国を増やすという道を開くことは全く不可能ではないということを学ぶことができたと思う。

【視覚障害者にやさしい海外ツアーシリーズ第六弾 次回ツアーのおしらせ】

さて、来年の6月に、視覚障害者にやさしい海外ツアーシリーズ第六弾「英雄ナポレオンの生まれたコルシカ島とコートダジユール&プロヴァンス花の旅」を企画しています。
  ナポレオンはフランスにとって英雄ですが、地中海に浮かぶコルシカ島の出身です。ツアーのベースを英雄ナポレオンの人生に焦点をあてて、コルシカ島の一番良い時期、「野生の花を愛する人にとって、コルシカ島はまさに宝庫である」という、花の香りをかぐためにコルシカ島へ行きたいと思います。この島は海の幸も豊富です。6月はマルセイユでニンニク市が開かれるし、プロバンスの一面ラベンダー畑や背丈以上のヒマワリの花畑をかき分け歩いてみたいものです。オリーブの圧縮工房や、グラースの香水のための花畑もいい香りがするでしょう。
  ナポレオンがエルバ島に流された後、1815年2月26日に島を脱出し、3月にはゴルフ・ジュアンの海岸に上陸し、カンヌ、グラースを経てグルノーブルへ1週間で向かったといいます。アンチーブ岬の西に広がるのがゴルフ・ジュアンの海岸ですから、アンチーブ(Antibes)から香水の街グラースまでたどってみましょう。アンチーブには、ピカソ美術館があります。
  ツアーコースの概略は、日本からパリまで飛び、そのまま乗り継いでコルシカ島に入る。ここで野生の花とナポレオンの生家を訪ねて少なくとも二泊。島の反対側から、船でニースあたりに渡り、内陸部にある有名人が好んで滞在する小さな街サン・ポール・ド・ヴァンスに二泊。そのあと、アンチーブからナポレオン街道を香水の街グラースまでたどって、セザンヌのアトリエがあるエクスアン・プロバンスを経てパリへ向かう。それに、陽光プロバンスのラベンダー畑やゴッホが描いたひまわり畑も訪ねたい。国境も一度は経験してもらいたいので、イタリアの街とフランスのマントンの地中海沿いの海辺の国境も歩いていただきましょう。ナポレオンが寵愛したジョセフイーヌとの愛の巣、パリ近郊のマルメゾンも加え、パリの凱旋門には触っていただきます。ナポレオンの墓のあるアンバリッドも実感したいと思います。
  現在企画の骨組みがほぼできあがり、旅行会社に手配依頼しているところです。皆さん!ふるってご参加くださいね!
  私は、その場所、その時で一番すばらしい旅をデザインしたいと思っています。

読者からのお便り

全国盲導犬使用者交流会に参加してきました

北海道  山本 義晴

5月23日土曜より、二泊三日の予定で、全国盲導犬使用者交流会が、岩手県花巻市で開催されました。全国各地から盲導犬とユーザーが集まり、講演、昔話、研修会、手作村見学、わんこそば大会、宮沢賢治記念館見学、童話村見学、懇親会、及び花巻温泉入浴を楽しみました。この中で、特に印象強かった項目を紹介しましょう。
  わんこそばは、今まで、一度も食べたこともなく、どのようなものかわかりませんでしたが、実際に食べてみると、想像していたよりも食べられたことには驚いてしまいました。当初は、30杯を越えられれば良いと考えていましたが、実際に食べてみると、72杯も食べることができました。このわんこそば大会のお陰で、しばらくの間は、そばを食べたくない気分になりました。
  宮沢賢治記念館見学では、「注文の多い料理店」の朗読を聞いたり、プラネタリウムを見たり、また、直筆の原稿や、小説の物語を粘土細工で作ったものを展
示していました。この記念館の近くには、注文の多い料理店に出てきた「山猫館」という名称のレストランも建てられていたそうです。
  童話村では、森林浴や賢治の学校を楽しみ、昆虫や植物の巨大なぬいぐるみも展示してあり、直接、触らせていただきましたし、童話の聞けるベンチもあって、アッと言う間に時間が来てしまいました。
  ホテル花巻では、三つのホテルが繋がっており、各ホテルに、それぞれ、温泉があったので、本館の「ホテル花巻」と、別館の「紅葉館」の温泉に入浴しました。露天風呂やサウナも設備されており、楽しく入りました。
  今回の交流会は、函館から私一人でしたので、多少の不安がありましたが、テンダーも一緒ですから、列車内では、時々、話をしながら楽しく行ってきました。JRの職員も親切に手引きしてくれましたので、もし、単独旅行に不安を懐いている方は、一度、思い切って、一人旅をしてみて下さい。駅員に援助依頼することにより、何の不安もないとは言えませんが、少なくても、乗り換え時の不安は解消されます。盲導犬がいるわけですから、単独旅行と行っても、話し相手がいるので、何も寂しいことはありません。
  この度は、ホテル職員や、ボランティアの方々には、大変、お世話になり、本当にありがとうございました。三日間、楽しく何事もなく過ごせたことを感謝致します。
  来年の交流会は、新潟県の佐渡で開催されますが、その宿泊施設や、開催日はすでに決まっています。ホテルには、今回と同様、温泉もあり、小鳥の囀りも豊かな場所です。今から予定を立てて、盲導犬に関する扱い方や、歩行中の失敗談、ちょっと便利な道具などの話をしたり、また、全国8カ所の訓練施設で訓練を受けたユーザーが集まると、それぞれ、違った体験をしていますので、自分自身の歩行に当てはめられる話も聞けます。来年も、是非とも参加しましょう。

      

「ユーザーのアンケート集計結果」を読んで

        埼玉県  福井 哲也         

「盲導犬情報」第17号の「日本ライトハウス行動訓練所ユーザーのアンケート集計結果」を興味深く拝読いたしました。
  このアンケートは、今まで見たものとは大分趣を異にしています。問11から16と20は、いわゆる犬の出来・不出来に関わる内容ですね。アフターケアのニーズ調査という性格から当然かとは思いますが、こういう結果が公表されるのは、今まであまりなかったように思います。私が知らないだけかも知れませんが。
  排便をトイレ以外で「ときどき失敗する」21、歩行時犬に遭ったとき「向かっていく」20、猫や鳥を見たとき「向かっていく」27、拾い食いを「する」16 ・・・このような結果に指導員の方々はどう感じられているのでしょうか。素人の私は、率直に言って、「ヘエー盲導犬も普通の犬みたいで、あんまりちゃんとしてないんだなあ」と思いました。
  考えてみますと、「盲導犬はきちんと訓練されていて、吠えたり噛んだりトイレの失敗など決してせず、おとなしくしている」というPRがあまりに浸透しているために、「犬らしい」盲導犬の姿に驚いてしまうのかもしれません。でも、物事の一方の側面だけが大きく宣伝されるというのは、何も盲導犬だけに限ったことではありません。「視覚障害者もワープロで墨字が自由に書けるようになった」とはいっても、漢字はよく間違えるし、レイアウトもうまくいかないという人はたくさんいます。「駅の券売機に点字表示が普及した」といっても、いつも手引きの人に切符を買ってもらう視覚障害者は珍しくありません。それでも、「ワープロに公的補助を」と運動し、「券売機には必ず点字をつけて」と訴えるのです。ですから、盲導犬の利用を広げていくためには、「盲導犬は完璧に訓練された犬」とのPRも自然なことかもしれません。
  ただ、もし私がタクシーの運転手やレストランの店主だったとして、「排便の失敗を時々する」が4分の1という結果をどう受けとめるでしょうか。失敗と言っても、タクシーやレストランの中というケースはどれぐらいあったのでしょうか。
  現状の分析や今後の対応については機会を改めてとのことで、そちらの報告もまた期待しております。

編集後記

毎日暑い日が続いています。素足で歩いている犬たちは、地面の熱さがたまらんと言わんばかりに、信号を待っている時など足踏みしたりして ・・・。炎天下を外出しなければならない時、皆さんはどうされていますか?
  ところで、前号で盲導犬の引退についての体験談、ご意見などをお願いしておりましたが、今回、掲載するだけのスペースがなくなってしまいました。申し訳ありませんが次号で掲載したいと思います。投稿してくださった方にはこの場を借りてお詫び申し上げます。また、この件に関しては引き続きご意見などお待ちしております。(久保)