盲導犬情報 第29号(2001年4月)



内容




病院に盲導犬を入れることについてのアンケート調査(2)

広島県  折坂育志

M総合病院の透析室に盲導犬を同伴して治療に通っていることとA地元のJ病院に盲導犬と一緒に通院したいとお願いしたことは前号に書きました。今回は、先ずM総合病院のW先生の談話を紹介致します。他人様の発言ばかり集めているようで恐縮でございますが、是非皆さんに聞いて頂きたいと存じます。
 昨年、広島県腎臓病友の会の機関誌『あゆみ』に盲導犬を同伴して透析治療を受けている折坂を、「仲間を訪ねて」の欄にとりあげ記事にして頂きました。その時にW先生から担当医師として談話を寄せて頂いたのでご紹介申し上げます。
 M総合病院とW先生はじめ関係者の皆様には、人々の生命を預かる立場で厳しい決断をして頂き、日常活動の思うに任せない弱者に包容力のある懇切な対応をされることに感謝の念を禁じ得ません。そして、一緒に治療を受けている仲間の暖かい応援に感謝するばかりです。
 では、W先生のお話しです。
 「最初に折坂さんより話があったときに、私を含めた透析スタッフ一同盲導犬への知識が乏しかったため、少し時間を頂いて調査勉強をしました。過去に我が国で透析患者さんが盲導犬とパートナーシップを組んだ事例が少なく、その対応に一定の見解はありませんでした。透析中は、屋外や透析室以外に犬を待たせる場合がほとんどでオた。しかし、盲導犬と使用者が常に一緒に行動することが犬も安心しベストであるため、何とか透析室への同伴ができないだろうかと考えました。
 更に調べてみると、盲導犬同伴透析は諸外国では日常的に行われており、また我が国でも過去に一例実施され特に問題はなかったとのことでした。幸いなことに、他の透析患者さんの盲導犬への理解度は高く、7割以上の方が盲導犬が透析室内に同伴するのは当然とのアンケート結果で安心しました。
 以上により、室内での盲導犬はダスターコートや靴の着用、ブラッシングの徹底、ベッドの配置配慮、頻回な室内細菌検査など、感染予防への対策を行いつつ、平成11年11月より盲導犬室内同伴透析を開始しました。現在約1年経過していますが、問題は何一つ起こっていません。
 今後も、このより良い関係が穏やかに継続されるために、スタッフ一同微力ながらお手伝いできればと考えています。」
 次に、折角ですから、機関誌の取材記者が記事の最後に感想を書かれていますので、ご紹介申し上げます。私への感想は過ぎた言葉ですが、盲導犬に対しては同じような感想を他でも何度か耳にしております。
 では、取材に来られたSさんの取材後感です。
 「キ時間にわたって取材をさせていただきましたが、折坂さんの前向きな考え方は見習わねばならないと感じました。犬好きな私にとって盲導犬との対面は待ち遠しいものでした。実際会って、かいがいしく働いているのを見て胸が熱くなるのを覚えました。」

さて、あれこれと話が混線してしまうと困りますが、先号の続きに参ります。J病院で行われたアンケートの統計的集計と、J病院とO先生のお考えになったことをこちらにも掲載させて頂きます。盲導犬関係者には大変力強いお考えを表明して頂きました。医療関係者にも一般にも参考にされて、積極的な一歩を踏み出されるよう念願致します。また、J病院では土足で出入りの出来る診察室へは盲導犬を同伴して入室出来ること、今後病院では盲導犬使用者が病院で治療しやすい環境を整備していくなどの方針が院長名で公表されています。
 なお、J病院では設備の関係で盲導犬の透析室入室は時期を待たねばならず、現時点で私自身が治療中に別室に犬を待たせておくことは忍びなく、M総合病院の方へ犬と一緒に通院しております。
 それでは、O先生のまとめられたアンケートの集計結果を謹んでご紹介致します。これだけの集計をされるにも、大変な手間ェかかったであろうと恐縮致しております。

盲導犬についてのアンケート調査

国民健康保険 J病院

1.目的

目の不自由な人が盲導犬を連れて来院されたとき、J病院ではどのような対応を取るべきかについてはまだ方針が決まっていません。現時点で、患者・職員が盲導犬についてどのように考えているかを知り、今後の病院の対応を決めたいと思います。

2.アンケート結果

実施期間 2週間(平成12年7月17日〜7月28日)
 患者 440名(回収率 70.1%)
 うち、外来患者など 358名、病棟患者または家族など 82名
 職員 96名(回収率89.7%)
 うち、医療職 78名、事務系10名、給食関係 8名

   1.年齢
患者 8〜92才
  平均 62.8歳
  男女比(%) 36:64
職員 19〜64才
  平均 39.2歳
  男女比(%) 29:71
   2.盲導犬を知っていますか?
患者 はい 400(92%)
  いいえ 37(8%)
  無回答  3
職員 はい  95(99%)
  いいえ  1(1%)
   3.2で「はい」と答えた方にお尋ねします。盲導犬に対する注意点を御存知ですか?
患者 はい  144(37%)
  いいえ 241(63%)
  無回答  15
職員 はい   40(43%)
  いいえ  54(57%)
  無回答   1
   4.盲導犬が病院内に入ることに対してどのように思われますか?
患者 かまわない 312(73%)
  困る 29( 7%)
  どちらともいえない 86(20%)
  無回答 13
職員 かまわない 60(64%)
  困る 7( 7%)
  どちらともいえない 28(29%)
  無回答 1
   5.4で「かまわない」と答えられた方にお尋ねします。病院内のどこまでならいいと思われますか?
患者(有効回答数302)
玄関 28(9%)
ロビー、廊下 102(34%)
病室,診察室 46(15%)
院内どこでも可 126(42%)
職員(有効回答数60)
玄関 3(5%)
ロビー、廊下 24(40%)
病室,診察室 21(35%)
院内どこでも可 12(20%)
   
   6.4で「困る」と答えられた方にお尋ねします。その理由は何ですか?(複数回答可)
患者 不衛生である 13
  嫌い 7
  怖い 7
  生理的に受け付けない 4
  アレルギーがある 3
  無回答 3
  職員 不衛生である 6
  嫌い 1
  怖い 1
  生理的に受け付けない 2
  アレルギーがある 1
  無回答 0
   7.盲導犬にガウンを着せる、靴を履かせる等清潔に気を付ければ、病院内のどこまでならいいと思われますか?
患者(有効回答数397)
院内不可 14( 4%)
玄関 41(10%)
ロビー、廊下 111(28%)
病室、診察室 58(15%)
院内どこでも可 173(43%)
職員(有効回答数86) 
院内不可 5(6%)
玄関 7(8%)
ロビー、廊下 27(31%)
病室、診察室 20(23%)
院内どこでも可 27(31%)
   7−1.4で「困る」「どちらともいえない」と回答した人では、
患者(有効回答数82) 
院内不可 12(15%)
玄関 18(22%)
ロビー、廊下 33(40%)
病室、診察室 4(5%)
院内どこでも可 15(15%)
職員(有効回答数29)  
院内不可 5(17%)
玄関 5(17%)
ロビー、廊下 12(42%)
病室、診察室 3(10%)
院内どこでも可 4(14%)
   7−2.4で「かまわない」と回答した人では、
患者(有効回答数307)
玄関 20(7%)
ロビー、廊下 78(25%)
病室、診察室 53(17%)
院内どこでも可 156(51%)
職員(有効回答数57) 
玄関 2(4%)
ロビー、廊下 15(26%)
病室、診察室 17(30%)
院内どこでも可 23(40%)
   7−3.4で「かまわない」と回答した人で、盲導犬の清潔に気を付けた場合の変化。
患者(有効回答数302)
そのまま院内へ入る場合
玄関 28(9%)
ロビー、廊下 102(34%)
病室、診察室 46(15%)
院内どこでも可 126(42%)
清潔に気を付けた場合
玄関 20(7%)
ロビー、廊下 76(25%)
病室、診察室 53(18%)
院内どこでも可 153(50%)
職員(有効回答数 57)
そのまま院内へ入る場合
玄関 3(5%)
ロビー、廊下 24(42%)
病室、診察室 18(32%)
院内どこでも可 12(21%)
清潔に気を付けた場合
玄関 2(4%)
ロビー、廊下 15(26%)
病室、診察室 17(30%)
院内どこでも可 23(40%)

3. 考察

盲導犬について患者・職員とも9割以上の人が知ってはいるが、盲導犬に対する注意点は過半数の人がわからないと回答した。目の不自由な人(盲導犬使用者)と盲導犬との関係や盲導犬への接し方など、患者・職員ともに広く啓蒙活動が必要と思われた。
 盲導犬が病院内へ入ることに対して患者・職員とも7%の人が「困る」と答えたが、大部分の人が「かまわない」と回答した。「かまわない」と答えた人で、「病院内のどこまでならいいと思われますか」の質問に対して、玄関、ロビー・廊下までとした人が患者43%、職員45%であった。病室・診察室以上可とした人がそれぞれ57%、55%であり、そのうち,患者の42%が院内どこでも可と回答したのが印象的であった。
 盲導犬が病院内へ入るのは「困る」と答えた人の理由は、「不衛生である」が主なものであった。「かまわない」「どちらともいえない」と答えた人で患者27人、職員5人が困る理由に丸印を付けていた。このことは、自分としては犬が嫌いだったり、怖かったり、アレルギーがあったり、衛生的に気になるが、盲導犬使用者のことを考えると、盲導犬が病院内に入ることは必要だと考えている一端と思われた。
 「盲導犬にガウンを着せる、靴を履かせる等清潔に気を付ければ、病院内のどこまでならいいと思われますか」の質問に対して、患者4%、職員6%がそれでも院内不可と回答した。しかし、患者・職員とも半数以上の人が病室・診察室以上可と回答し、そのうち、患者43%、職員31%が院内どこでも可と回答していた。盲導犬が病院内に入ることに対して「困る」「どちらともいえない」と答えていた人では、清潔に気を付けても盲導犬が病院内に入ることに抵抗があり、患者77%、職員76%が玄関、ロビー・廊下までと回答した。逆に、盲導犬が病院内に入ることに対して「かまわない」と答えていた人では、患者68%、職員70%が病室・診察室以上可と回答した。「かまわない」と答えていた人で、盲導犬がそのまま院内へ入る場合と、清潔に気を付けた場合にどこまでならいいと思うか比較した(有効回答患者302人、職員57人)。そのまま院内へ入る場合は病室・診察室以上可と回答した人が患者57%、職員53%であったが、清潔に気を付けた場合はそれぞれ68%、70%に増加していた。盲導犬が病院内に入ることに対して「困る」「どちらともいえなぁ
 なかったが、「かまわない」と答えた人と同様に盲導犬が病院内へ入ることに対して制限を加える気持ちは和らぐと思われた。
 今回のアンケートは患者・職員に、盲導犬使用者と盲導犬に関する情報を提供する前に行ったものである。この段階で、盲導犬の清潔に気を付ければ患者・職員とも半数以上の人が、盲導犬は病室・診察室にも入っていいと答えていた。目の不自由な人の社会参加が大変であること、盲導犬は他の愛玩犬と違って特殊な訓練を受けていること、盲導犬使用者と盲導犬は、一緒にいることが最も安定した状態であることなどの理解が得られれば、盲導犬が院内へ入ることに制限を加える人の割合は、もっと減少すると思われた。病院に勤務し、病院が最も衛生面に気を付けなければいけないという特殊性を知っている職員の54%が、病室・診察室以上可と回答しており、今後当院での盲導犬対応の判断材料になると思われた。
 宿泊施設、飲食店や公共交通機関などへの盲導犬の同伴は広く認められており、厚生省や運輸省などの行政も、盲導犬使用者が安心して利用できるように指導している。病院への盲導犬の立ち入りに関して、医師会や保健所などの一定の見解はなく、盲導犬同伴の許可は病院の責任者に一任されている。衛生面は、現在病院へは土足のまま入ることが出来ることを考えると、盲導犬にだけ院内用の靴を履かせたり、ガウン(ダスターコート)を着せる必要なく、病室や診察室へも盲導犬使用者と一緒に入ることは当然可能と考える。ただ、「どうしても犬がいやだ」という人がいれば、病院側がその人に理解を求めたり、盲導犬から離れてもらうようにする必要がある。清潔区域(当院では、手術室や新生児室)への盲導犬を伴っての入室は、盲導犬使用者も希望されないであろうが、制限されるべきである。上履きに履き替える必要がある準清潔区域は、当院では血液透析室である。透析室で問題になる事は、透析室が狭く、犬の嫌いな患者がいた場合に、更衣室・ベッドを離すことが出来ない、使用者の隣やベッドの下に、盲導犬を待たせる場所の確保が難しい、
 透析患者は腎不全や合併症のため抵抗力が弱く感染症を起こし易い、太い針を2本血管に刺し透析器に血液を送り体内へ戻す事を週3回、1回4時間行っており、細菌感染には十分な注意が必要で、盲導犬入室に伴う抜け毛、落下細菌の増加、透析室全体の清潔度の確保ができるかどうかという事である。以上が解決できれば、透析室への盲
 導犬の入室は可能と思われるが現時点では解決されず、盲導犬同伴での入室は制限せざるをえない。

4. おわりに

目の不自由な人が、使用者の目となる盲導犬と一緒に、制限を受けることなくどこへでも行ける事は、盲導犬使用者の権利であると思う。病院は特殊な施設であるが、衛生面を損なわないよう最大の努力を払い、盲導犬使用者の権利が認められるように、病院の体制を整えなければいけないと思われた。
  最後に、お忙しい中、アンケートにご協力していただいた患者、職員の皆様に心より感謝いたします。

集計はここまでです。長期間にわたり、有り難う御座いました。

盲導犬情報ボックス

医療機関に対する通達について

盲導犬を伴っての通院などに関して、1998(平成10)年1月5日付けで厚生省保険医療局国立病院部運営企画課長と政策医療課長の連名で、各地方医務(支)局長・国立高度専門医療センター総長宛に以下のような通達が出されています。

盲導犬を帯同した来院者への対応について

標記については、かねてより種々御配慮されているところであるが、今般、財団法人アイメイト協会より別添1のとおり要望を受けたことを踏まえ、国立病院・療養所の利用者に対するサービスの向上を図る観点から、下記の点について、貴局管内各施設(国立高度専門医療センターにおいては当該センターの職員)に対し、その旨を充分に周知させるとともに、その実施につき遺漏のないようよろしく御指導願いたい。
  なお、盲導犬は、その訓練に当たって、視覚障害者の移動のみでなく、排泄等についても厳しくしつけられていることから、その衛生上、安全上の問題についてもいわゆるペット動物とは全く異なることを念のため申し添える(別添2参照)。

  1. 衛生上、安全上特段の問題があると判断される場合を除き、原則として待合室、廊下等において視覚障害者が盲導犬を帯同することについては、拒むことのないようにすること。
  2. ただし、手術室、集中治療室、無菌室等、施設長が衛生上の観点等から盲導犬を帯同して入室することが不適当と定める区域については、その限りではない。
  3. なお、これらの区域においては、当該患者に対し、盲導犬を帯同することが出来ない理由を説明した上、当該区域の入り口付近において盲導犬を待機させることとし、看護婦等の職員が視覚障害者を適切に誘導すること等により、視覚障害者の移動、受診等に支障が生じないよう努めること。

盲導犬を同伴した視覚障碍者の動物園入園に関するアンケート調査結果報告(3)

3.実際に動物園に行ってみて

アンケートの集計を終えてから、アンケートの中で「盲導犬を同伴しての入園が動物たちに望ましくない影響を及ぼすかどうか実際に試してみてほしい、と事前に申し入れをした場合、ご協力いただけますか?」という質問に「協力する」とお答えいただいた動物園の中で、まだ盲導犬を伴って入園した人がいない、という動物園のいくつかと連絡を取り、実際に盲導犬使用者と動物園に行ってみることにしました。
  今回、ご協力いただいたのは、埼玉県にある狭山市立智光山公園こども動物園。狭山丘陵地帯の中にあり、2時間もあればゆっくり園内を見てまわれるほどの規模の動物園で、ふれあい広場やポニーの乗馬コーナーもあり、約140種類の鳥獣類が飼育されています。
  3月21日、埼玉県にお住まいの盲導犬使用者、TさんとNさんに同行していただき、この狭山市立智光山公園こども動物園に伺いました。園内では、O園長とK飼育技師のお二人が、案内しながら動物園の動物たちや盲導犬の様子を見てくださいました。

園内をまわる前に、事務所で少し話をお聞きしました。その中で、盲導犬に対して過剰な反応が心配されるのは、サルや鳥類、ラマなど具体的な動物名をあげていただきました。特にラマは驚いたりすると非常に強い悪臭を放つ唾液を吐く、とのことで、このラマやポニーの乗馬コーナーのあるエリアは今日も行かずに園内をまわりたい、との説明を受けました。
  事務所での話が終わって「さあ出かけましょうか」となってから、いやその前に人間の方がトイレを済ませようということになりました。トイレのある場所を案内していただいたところ、先ほど今日のコースから外すと説明のあったラマのいるコーナーの横手で、ラマのいるところから50メートルも離れていないような場所にありました。横手の道をトイレまで行きましたが、ラマは砂場の上に寝ころんでひなたぼっこをしていて、近づいてきた盲導犬には気がつかないようでした。
  まず動物園の近くを流れる入間川の生態系がわかるように工夫されたミニミニ水族館の説明を受けた後、インコなどが展示されているスペースへ。キバタンというインコは、頭の上にある黄色い冠のような毛を逆立てたりはしましたが、それ以上の反応というのはありませんでした。その後、アーチ型のバードゲージの中も通り抜けました途中立ち止まってアーチの下でしばらく話もしましたが、中にいる小鳥たちの様子に変わりはないようでした。
  アーチ型のバードゲージを通り抜けると、ふれあい広場の中に入ります。入って左手は、キジ舎。キジの反応が心配、とのことでしたが、キジ科のヤマドリに特別変わった様子はありませんした。しかし、アカオヒメシャクケイだけは別で、まだ10メートルぐらいは離れたヤマドリのゲージの前にいるにも関わらず、羽をばたつかせ大きな声で鳴いていました。O園長のお話では、より野生に近いものの方が盲導犬を見て過剰に反応するのではないか、とのことでした。
  アカオヒメシャクケイからはなるべく離れてその前を通り過ぎた後、ウサギやモルモット、ハムスターなどのいる愛玩動物舎の前を通り、ヒツジ・ヤギと柵越しにご対面。柵は腰の高さより少し高いぐらいの柵で開閉式のドアがついていて、ドアをあければヒツジ・ヤギのいる柵の中に入れるようになっています。ヤギは好奇心が旺盛なのか、何頭かのヤギが静かに近づいてきて、しかし適度に距離を保って、じっと盲導犬を見ています。ヒツジは柵の向こうの方でじっと寝ているままでした。しかし、しばらくすると1匹のヒツジがむっくりと起き上がってこちらにやってきました。そして、ヤギとは違い柵越しにさわることができるくらい近づいて来て、じっと盲導犬を見つめたかと思うと、前脚をカッカッと踏みならして威嚇し始めました。威嚇された盲導犬の方は、「ちょっと、いやだなぁ」という感じでユーザーの横から少し後ろにさがって横を向いていました。
  ふれあい広場を出て、今度はサル山に行きました。サルも神経質に反応するかと心配しながら少しずつサル山に近づいてみました。すると、サル山にいるニホンザルたちは、山の後ろに移動し始めました。怖くて山の後ろに隠れるのかな、と思いきや、また山の向こうから手前にやって来ます。山をぐるっとまわって来ただけのようで、それ以上の反応はみられませんでした。
  サル山から坂を下りツル舎の前を通ってみました。ツルなどの鳥類がいる小屋は、屋根がネットになっているので、パニックに陥って飛び回るとネットに羽を絡めてケガをするおそれがある、とのことでした。しかし、盲導犬が見えずに気がついていないのかな、と思うほどツルの様子に変化は見られず、静かに水を飲んでいました。ちなみにどんな時にパニックに陥るのかをお聞きしたところ、飼育員が二手に分かれて近づくような素振りをみせるとパニック状態になるのでツル舎に入るときは注意をしています、とのことでした。
  ツル舎を通り過ぎると、今度は水鳥のいる池に出ました。ラブラドール・リトリーバーは元々撃ち落とされた水鳥をくわえて戻ってくる猟犬ですが、水鳥にさほど興味はないようで、ユーザーと一緒にぐるっと池のまわりを歩きました。次に白鳥などがいる池に来ました。池のほとりにおりるための階段は、コンクリートで固められた階段ではなく、自然に近い趣のある階段で少し幅が狭くどちらかというと急なものでした。もちろん危険なものではありませんし、ユーザーも何の苦もなく階段を下りました。しかし、O園長は
「こういう階段はおりにくいでしょう」
と気遣ってくださいます。
「いえいえ、ご心配には及びません」
といったような話をしているうちに、白鳥がこちらの方に近づいて来ました。盲導犬がいるから寄ってきたのかな、と思いましたがそうではありませんでした。どうやら飼育技師の制服を見てエサがもらえると勘違いしたようでした。
  この池は動物園の入り口のすぐ左手にあり、ラマのいるエリアを除くとこれで園内を一周したようでした。すると、O園長から
「行かないと言っトいましたが、ラマのいる方にも行ってみることにしましょう」
と嬉しい提案があり、さっそく入り口を通り過ぎて入り口の右手、ラマやポニーがいる方に行ってみました。
  ラマのいるエリアに入る小道の真正面にラマがいます。スッと首を伸ばしたような感じで3頭のラマがこちらを見ています。こちらが動けばそれについてくるように動きます。視線はこちらにじっと向けたままでいかにも警戒しているようでしたが、おびえている感じではありませんでした。もちろん、口から臭いものを吐きつけられることもありませんでした。このエリアには、他にヤギに似た感じのマーコールがいて、やはりこちらに注意を払って警戒しているようでしたが、動き回ることもありませんでした。
  反応がもっとも心配されたラマが何事もなく見送ってくれ、もうほとんど園内すべてをまわり終えて、少しほっとしながらポニー舎の後ろをまわった時、激しく羽をばたつかせながら右往左往しているダーウィンレアの姿が目に飛び込んできました。ダーウィンレアの隣室には抱卵中のトリがいると聞いていたので、その激しい調子に驚きながら慌ててダーウィンレアの視界に入らない場所に移動しました。そして、最後にミーアキャット、アライグマなど小型獣舎をまわって、最初にお話を聞いた事務所に戻りました。
  園内の鳥獣類が盲導犬に対してどのように反応したのか、あるいは反応しなかったのかを見ていただいた上で、盲導犬を同伴して動物園に入園することについて、いろいろお話を伺いました。その中で、やはり盲導犬を同伴して入園する場合、事前に連絡がほしいという話になりました。たとえば、抱卵中のトリのいる場所に近づくのは避けてほしいが、事前に電話で盲導犬を同伴するとの連絡があれば、園内での連絡や指示が確実にできるから、というのがその理由です。また、盲導犬を同伴せずに園内をまわる場合、どのような場所で盲導犬を待たせておくのが適切か、といった質問も受けました。他の入園者が盲導犬をさわったりエサを与えたりすることがない、盲導犬の安全が確保できる場所として、例えば事務所の中などが望ましいのではないか、とお答えしました。
  最後にタクシー乗り場までO園長に見送っていただきましたが、その時、
「盲導犬は、動物園の動物を見てもっといろいろと反応し、その反応がさらに動物たちを刺激するんじゃないかと思っていました。盲導犬はおとなしいんですねぇ」
とおっしゃった言葉が印象Iでした。
  後日、電話で伺ったところ、抱卵中のトリやダーウィンレア、その他の動物たちにも盲導犬が来たための影響はなかった、とのことでした。

4.まとめ

今回のアンケートを集計してみて、「実際に盲導犬を同伴した視覚障碍者が入園したことがある」と答えた動物園からの回答をみると、盲導犬を同伴しての入園が必ずしも不可能ではないこと、しかし、盲導犬に対して動物園のすべての動物たちが無反応でいるわけではないことがわかりました。一方、受け入れの経験がない動物園には、「動物の反応が予測できない」という不安があることもわかりました。
  しかし、動物の反応が予測できないから「入園を断る」のではなく、動物の反応が予測できないならば「盲導犬使用者が盲導犬をコントロールして落ち着いた状態で園内を移動する」ことに注意を払うことが大切なのだと言えるのではないでしょうか。そして、盲導犬に過剰に反応している動物がいれば静かに遠ざかる、といった配慮は盲導犬使用者に必要なことでしょう。動物たちの反応については、盲導犬使用者だけでというよりグループで園内をまわることの方が実際は多いと考えられるわけですから、まわりの人たちに周囲の動物たちの反応を確認しながら園内を移動すれば、通常の展示方法であればそれほど問題は生じないように思われます。もし自分の盲導犬が動物園の動物に過剰に反応すると思われれば、その時は盲導犬使用者は盲導犬を同伴しての入園でない別の方法を考えるべきでしょう。
  盲導犬と一緒に園内を移動しない、となると、使用者が園内にいる間は盲導犬をどこか適切な場所で待たせることが必要です。その場所の提供は動物園にお願いしなければならないことですが、盲導犬は「待つ」ということも訓練されているわけですから、盲導犬を待たせるのに必要な設備を動物園に用意してもらう必要はありません。
  ただ、動物園にお願いしたいこととしては、盲導犬は、盲導犬だからといってすべての犬が同じように動物に対し反応したり、しなかったり、あるいは何時間でも平気で待てたり、というわけではないことを理解していただき、盲導犬に対して画一的な対応方法をとるのではなく、できるだけ柔軟な対応をお願いしたいと思います。そのためには、盲導犬を同伴した視覚障碍者が来園したとき、どうすべきかはその盲導犬の使用者の判断をまず尊重し、一緒に園内を移動するか、どこかに待たせておくか、どちらの対応も可能であることが望ましいでしょう。
  盲導犬にも動物園の動物にも個性があります。動物の展示方法も違います。一概に「盲導犬を同伴しての入園」が可能とも不可能とも言えません。しかし、その動物園にあった適切な判断をするために、まずお互いを理解することは必要です。そのためには、機会があれば、盲導犬を同伴しての入園を認めその様子を見た上で判断されるよう、動物園関係者の方々には、是非お願いしたいと思います。
  最後になりましたが、今回アンケート調査に協力してくださった動物園の担当者の方々、狭山市立智光山公園こども動物園の方々に感謝申し上げ、今回のアンケート調査報告を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

盲導犬ユーザーの経験談

避難訓練に参加して

兵庫県 K.Y

福祉センターの開設以来、10年目にして初めての避難訓練がありました。オードリーと一緒にその避難訓練を受ける事になってしまいました。
  センターは3階建てで、私は3階の教室で講義を受けている時、非常ベルが鳴り出しました。教室には、車椅子の人、聴覚、肢体、視覚、内臓などの障害者が20人、そしてボランティアさんが二人いました。視覚障害は私一人でした。
「階段、エレベーターは使えません。非常口から出て下さい」
とアナウンス。
  真っ先に行動をおこしたのは、言うまでもなくオードリーでした。なにしろ怖がりやのオードリーですから、もう異常な雰囲気に敏感です。授業中、オードリーは私の足元で静かにダウンして待っています。その時も寝ていたのですが、非常ベルが鳴り出したとたん、頭を持ち上げキョロキョロ。
「さあ、逃げなきゃいけないね」
と言ったとたんに、さっと立ち上がってスタンバイです。いつもと違う雰囲気に、そわそわしていました。聴覚障害の人達は、手話通訳の人に教えられて初めて行動に移ります。
「大丈夫、大丈夫」
とオードリーをなだめながら、1番に教室を出て、職員の誘導に従って避難場所へ。非常口から建物の外へ出て、そこで一応終了。
  ここまでは、よくある訓練です。避難した場所は2階の屋上でした。実際は、そこから非常スロープを滑りながら地上におりて逃げます。非常スロープというのは、直径2メートルの円柱の中をグルグルまわりながら降りる、螺旋状の滑り台です。滑り台の床はステンレスのパイプが何本か並んでいるもので、隙間から地上が見えていたようです。滑り台の枠の手すりの高さは40センチ、巾は1人が滑れるぐらいの広さでした。2階まで降りたらおどり場になっていて、またスロープに乗りなおして地上まで滑ります。
  見える人は、怖がっていました。私は、実際の火事ではオードリーと一緒に逃げたいと思っているので、思いきって挑戦しました。
  足だけスロープに乗せ、スロープの始まるところに太股の後ろが来るようにして座ります。オードリーを私の膝から胸のところに乗せようとするのですが、こわがって乗りません。もう、こうなったら、両手で抱きこむより仕方ありません。リードを手に巻きつけて短くし、何かに引っかからないようにします。オードリーを抱きかかえ、私と顔を合わせるようにして、ハーネスの胴体の部分をしっかり握って、オードリーが、飛び出さないように、片方の手で背中を抱きこんで、スロープに腰を乗せて、いざ滑ります。
  すると滑り出したのはいいのですが、途中で止まってしまいました。一瞬ひやりとした時、上の方から
「引っかかってる、オードリーの前足」
と声が聞こえてきました。オードリーが反射的に手すりに前足を引っかけて、しがみついてしまったようです。前足をはずして私の胸の上に置き、私は仰向けに寝るようなかっこ、で、肩甲骨の下端まで台に付け、スルスルスルー。
  2階のおどり場にたどりついて、またスロープに乗ります。3階の時と同じようにしてスロープに乗り、今度は、滑り出したとたんにオードリーの前足を私の胸の上に押し付けて、1階までスルスルスルー。
  2階からのスロープはとても急で、一瞬底知れぬ深みに吸いこまれそうな錯覚をおこしてしまいました。その時、消防署の職員の方が、
「もうすぐだからね」
と声をかけてくれました。我にかえって地上に着いた時は、もうホッとしました。
  これで、いざという時は、オードリーと逃げられます。教室の仲間の内で経験したのは、私を含め5人だけでした。他の人は怖がってたようです。見えない事が、怖さを感じさせないことに役に立つとは思いませんでした。多分、オードリーはとても怖かったことでしょう。終わった時、オードリーは、尻尾ビュンビュンして皆に愛想を振りまいていました。
  センターの職員、ボランティア、消防署の職員の方々の優しく微笑んでいる多くの視線が、オードリーに注がれていたようです。消防署の職員さんに尋ねて教えていただいた事は、ステンレスのパイプの台は、ジャージなどは、とても滑りやすくスピードが出驍サうです。スピードを調節するには、手で手すりを掴むのではなく、足を両側に広げて、枠の壁に押すようにするという事でした。
  本当にいい経験をさせていただきました。いざという時は、あわてず冷静に行動すればいいことを学ばせてもらいました。そして、非常スロープでも、盲導犬と一緒に逃げられる事がわかり安心致しました。
  最後に、この訓練を受けるにあたり、実施日の1週間前に避難訓練の予告があり、その時、ボランティアさんに、非常スロープがどうなっているのか尋ねて、詳しく説明してもらっていました。どうしたらオードリーと一緒に逃げられるか、対策を練っていた事を付け加えておきます。

読者からのお便り

花見時期が来ると思い出されること

北海道 Y.Y

21世紀最初の春がやって来ました。函館の花見の時期は、いつもゴールデンウィークの終わり頃です。こちらでは、5月に八種混合ワクチン接種があるので、花見に出かけるのは、いつもそのワクチン接種の帰りになっています。
  花見と言えば、函館公園、五稜郭公園などが有名ですが、個人的には、毎年テンダーを連れて五稜郭公園に出掛けています。
  外で桜見物をしながらの香ばしい「ポッポ焼き」を食べるのが、私が最も楽しみにしていることの一つになっています。しかし、北海道以外でポッポ焼きと言っても、ほとんどの場合、何のことかわからないようですね。実は、このポッポ焼き、標準語に直すと「イカ焼き」のことです。
  ベンチに座り、テンダーを足元で伏せさせて、私がポッポ焼きを食べていると、やはり声をかけられることも多いです。今まで特に印象に残っているのは、盲導犬育成のための資金を団体で寄付していると言う人と出会ったことです。家に帰宅してから、資料を見ると、確かにその団体名が載せられていました。
  このように多くの方々からの寄付金によって支えられている盲導犬事業。花見の時期が来ると、毎年のように思い出しています。
  最後に、盲導犬の感情を知りたい、少しでも気持ちをわかってあげたいと言う方にお薦めの図書がありましたので、参考までに紹介しておきます。なお、これは普通の犬のことが書かれていますが、盲導犬にも当てはまると思われる箇所が多く載せられています。
「イヌに遊んでもらう本」 博学こだわり倶楽部編 定価450円

こくちばん

全国盲導犬施設連合会 今年度のポスターと機関誌

全国盲導犬施設連合会ナは、全国盲導犬普及キャンペーンの一環として、毎年度ポスターと「デュエット」という機関誌を作成しています。
  今年のポスターは、右半分に座っているハーネスをつけた盲導犬の上半身。そして「紹介します、私の家族です。」のコピーが中央に、左奥にピントをぼかしてユーザーらしき女性が座っている、そんなポスターになっています。
  「デュエット」の方は、加盟各施設の紹介の他に、盲導犬に関する豆知識のコラムが各ページに設けられています。盲導犬の犬種やパピーウォーカーなどのボランティア、歴史についてなど、短くまとめて紹介されています。また、平成11年度の都道府県別盲導犬育成頭数(ただし加盟施設のみ)の他、活動報告として、デモンストレーションの実施件数や盲導犬訓練士研修会での様子などが写真入りで紹介されています。
  これらのポスター・機関誌は、全国盲導犬施設連合会の募金箱を置いてくださっているスーパーなどに配布していますので、そういったお店で目にする機会もあるかと思います。また、機関誌はお客様が手に取れるように店頭に置いているお店もありますが、そういったお店が近くに見当たらない場合、希望される方にはお送り致しますので、全国盲導犬{設連合会事務局か加盟施設にお問い合わせください。なお、郵送する場合には送料を申し受けることがありますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

編集後記

できるときにすべきことをしていなかったせいで、「盲導犬情報」の発送が大幅に遅れてしまいました。皆様のお手元に届くころには、もうゴールデンウィークは終っていることと思います。申し訳ありません。
  先日、高知県内の動物園の園長さんから電話をいただきました。「一度、盲導犬ユーザーに来てもらいたいと考えているのだが・・・」とのこと。早速、高知県にお住まいの盲導犬ユーザーの方に連絡をとり、今度、動物園に行ってみてもらうことになりました。
  「目の不自由な人が、使用者の目となる盲導犬と一緒に、制限を受けることなくどこへでも行ける事は、盲導犬使用者の権利であると思う」と、J病院のO先生も書いておられました。声高に主張せずとも、ごく自然にそう考えられる日が早く来るといいですね。もちろん、権利もあれば義務もあります。ユーザーがマナーを守ることの大切さは言うまでもありません。(久保)