盲導犬情報 第30号(2001年7月)



内容




施設紹介

2001年になって、新たに二つの盲導犬育成施設が日本にできました。一つは財団法人日本盲導犬協会が仙台に新設した訓練センターで、5月に竣工式が行われました。また、兵庫県神戸市にある社団法人兵庫県盲導犬協会は、全国で9番目の盲導犬育成法人として今年の3月に国家公安委員会から指定を受けました。これで日本の盲導犬を育成する法人は9法人、訓練施設は10施設となりました。
  そこで今回、この21世紀の幕開けと共にオープンした盲導犬育成施設、財団法人日本盲導犬協会仙台訓練センターと社団法人兵庫県盲導犬協会にそれぞれ自己紹介をお願いしました。

財団法人日本盲導犬協会仙台訓練センター
   〒982-0263 宮城県仙台市青葉区茂庭字松倉12-2
   TEL.022(226)3910 FAX.022(226)3990

 財団法人日本盲導犬協会は、東北初の盲導犬訓練センターをオープンするため、まず平成7年に仙台市内に事務所を開設し、市民に対する啓発や、行政に対する働きかけを行ってきました。又、平成10年には施設建設基本構想検討委員会を設置し、施設建設方針や事業内容を検討してまいりました。その中で、仙台訓練センターでは、盲導犬による歩行訓練も生活訓練の一部としてとらえ、総合的な視覚障害者リハビリテーションを行う施設として事業を行っていく事が確認されました。そしていよいよこの5月に、仙台訓練センターがオープンしました。
  仙台訓練センターは、仙台駅から車で約20分。山と田畑に囲まれた、緑豊かな環境にあり、仙台市より無償貸与を受けた約6300m2の敷地には、グリーンとクリームを基調にした3階建ての訓練棟と、平屋建ての犬舎棟が並んでいます。訓練棟には、宿泊施設の他、2DKの日常生活訓練室やコミュニケーション訓練室も備わっています。
  平成13年度は、3頭の盲導犬貸与と、10月より仙台市内の方を対象とした、訪問による白杖歩行訓練を行います。又、将来的には、年間10〜12頭の盲導犬貸与と、東北6県の視覚障害者の方を対象とした短期入所(約1ヶ月間)や、通所による白杖歩行・日常生活動作・コミュニケーション訓練を行う予定です。仙台訓練センターが、地域福祉の拠点としてその機能を十分に発揮するためには、視覚障害者団体、医療機関、行政、ボランティア団体など様々な機関との連携を取りながら、まず利用者のニーズの把握から始め次にリハビリテーションの有用性を啓発していかなければなりません。最初は亀の歩みの様にゆっくりではありますが、着実に広めて行きたいと思っています。
(墨字版には、仙台訓練センターの全景写真が掲載されています)

 

社団法人兵庫県盲導犬協会
   〒651-2212 兵庫県神戸市西区押部谷町押部字向井24
   TEL.078(995)3481 FAX.078(995)3483
   http://www.moudouken.org/

社団法人兵庫県盲導犬協会は、平成2年10月、財団法人関西盲導犬協会の協力の下、任意団体として発足しました。兵庫県立産業会館(神戸市中央区中山手通)に事務所を借り、盲導犬の普及および啓発活動、盲導犬貸与希望者に対して白杖歩行訓練の実施、ボランティアに対して手引き講習会などをおこなってきました。平成9年10月には、公益性と永続性が兵庫県より認められ法人格を取得する事が出来ました。当時は、訓練施設を所有していませんでした。そのため、財団法人関西盲導犬協会に盲導犬の育成、訓練を依頼していました。平成11年に神戸総合訓練センター第1期工事が終了し、平成12年に第2期工事が終了しました。ライオンズクラブ、ロータリークラブ、その他奉仕団体、日本自転車振興会、財団法人中央競馬社会福祉事業団、会員の皆様方、寄付、募金していただいた方々のご支援により、神戸総合訓練センターが完成しました。平成13年3月8日国家公安委員会から、「盲導犬の訓練を目的とする法人」として指定を受け、全国で第9番目の盲導犬訓練施設として活動できることになりました。13年5月には、全国盲導犬施設連合会に加入が認められました。歴史のある他盲導犬施設のご指導の下、盲導犬事業を発展させて参りたいと願っています。
  当協会では、仔犬の時から社会性を身につける訓練として、また地域に対する啓発活動も兼ねて、パピーウォーカーの自宅近くのスーパーマーケットやよく使う店に事前に許可を得て、パピー(盲導犬候補犬)にコートを着せて連れて行くことを実施しています。社会一般への啓発活動として、学校や各種団体等に講演活動を行ったり、定期的に手引き講習会を開催し視覚障害者が盲導犬と共に暮らしやすい環境づくりに力を入れております。また、盲導犬使用者に対して、医療費、治療費の軽減を図るため各種団体に働きかけるなど地域の特性を生かしたサービス、フォローアップの充実などを心掛けていきたいと思っています。
  今後、盲導犬の育成、訓練、指導員の養成などに取り組み、充実した内容、質の高いサービスを提供できるよう一層の努力を続けていく所存です。

(墨字版には、神戸総合訓練センターの全景写真が掲載されています)

盲導犬ユーザーの旅行記

私の壺阪霊験記

広島県  小畑 昌弘

平成12年11月29日、家内とレックスと三人で晩秋の奈良観光旅行に出かけました。事前に視覚障害者外出ボランティアに電話をかけて案内を頼んでみましたが、晴眼者の人が付き添っていればダメですと断られました。ごもっともと思いましたがそれでも名所案内のパンフレットなどを送ってもらいました。 
  今回の奈良旅行は久しぶりでしたが盲導犬と家内と行くのは初めてで、いつものようにというか、入店入場拒否の問題をかかえながらの事でした。
  神社仏閣などは宗教上の理由で、また保守的概念の強い地域では特に盲導犬拒否の傾向が強く、家内も盲導犬の同行に難色を示していましたが何とか説得してこの日の旅行となったわけです。
  日程は一泊二日の予定で目的地は壷阪寺と大仏殿それに薬師寺などです。広島駅を8時35分に出て近鉄壷阪山駅へ着いたのは10時半頃でした。ここからバスに乗り換えますが、バスは1時間に1本しかなくその間駅前の通りを歩いて見ることにしました。街は旧家風の古い家が建ち並びその多くは薬屋の看板がかかっていました。聞けばこの街は越中富山につぐ薬の産地だそうでした。
  やがてバスが来て私たちのほかに3人の乗客を乗せて出発しました。しばらくしてバスは急な坂道にさしかかり、高いエンジン音をひびかせ左右にくねくね曲がりながら登って行き、約20分ぐらいで終点の壷阪寺に到着しました。
  バスを降りるとほとんど昼前になっていて食事をすることにしました。あたりは店らしきものはないようで寂しい所でしたが、たった一軒だけおさと茶屋と言う名前の店があり入ることにしました。
  眼病にご利益のある寺の前の食堂なので視覚障害者に理解があると思ってはみましたがそれでも念のためと思って盲導犬同伴の許可を求めたところ、意外にも犬は外につないで下さいと言う返事が返ってきました。そんなぁと思いながら説得のすえやっと入り口のそばのテーブルに座ることができました。 
  ヤレヤレと思いながらまずい?うどんを食べ、さわ市さんに盲導犬がいたら物語になっていないだろうナー、おさと茶屋の名前も変えてもらいたいヨなどと思いました。そんな後味の悪さをグッと飲み込んでおさと茶屋の店を出ました。
  その店からすぐに壺坂寺の境内にはいりました。壺坂寺は観音信仰の寺で西国六番の札所としてまた眼病治癒の観音様として古くから知られており、壺阪霊験記のおさとさわ市の物語で有名なお寺です。
  坂道を登って行くと境内のほぼ中央に室町時代の本堂があり、右手後方の山の上に高さ20メートルの観音様が下界を見おろすように立っておられました。そして本堂右手奥の方におさとさわ市の二人の像が並んでありました。その後ろにさわ市が飛び込んだと言われる狼谷がありました。当時は高さ30メートルほどあったそうですが、今は浅くなり落ちても死なないそうです。もちろん高いアルミの手すりもついていましたが、うちのおさとが言うのに
「なんだ、落ちても死なないなんて。とうちゃんをうしろから押してやろうと思ったのに」
と本気ともとれる事を言って笑っていました。
  それから本堂のわきに売店がありその中にさわ市目薬1500円と言うのがあり、売店のおねえさんによるとアレルギーなどによく効くのだそうで高いとは思ったけど記念に買って帰りました。
   おさとさんにお別れを言って次に今度は境内の敷地から急な坂道を下るとそこには盲老人ホーム「慈母園」があり、見学させてもらいました。
  慈母園は昭和36年に設立された日本で最初の養護盲老人ホームだそうです。応待に出られた事務の石田さんと園長さんから施設の概要や事業の内容などについて詳しく説明していただきました。その後、実際に食堂や居室そして付属設備などを見学させてもらいました。
  居室はほとんどが一人部屋で広さは8畳ぐらいで、入り口には洗面ユニットや冷蔵庫なども完備しておりとても立派なものだと感心いたしました。園長さんの
「盲老人の人達がどれだけ自由を楽しむ事ができるかがテーマです」
と言われた言葉がとても印象にのこりました。いずれやっかいになるかも知れませんと思いながらお礼を述べて山を後にしました。
  ホテルに行く途中、高松塚古墳の近くにある巨大な亀の形をした自然石を見物しました。この石は自然に流れ出たものだそうで頭が私の腰ぐらいの高さがあり、大きな背中は手がとどかないぐらい高くレックスもびっくりした様子でした。そこから約一時間ほどでJR奈良駅の近くのホテルに着きました。
  ホテルの名前は「奈良ワシントンホテル」という名前でしたが今年の4月にオープンしたばかりだそうでとてもきれいなホテルでした。「障害者に優しいホテル」がキャッチフレーズだそうで盲導犬は胸をはってOKでしたし、もちろん車椅子にも対応できていました。客室入り口ドアも広く、バス・トイレも車椅子が方向転換可能になっており、居室は私が方向を考えるほど広くとってありました。全客室がこのようではないとは思いますが少しずつ障害者の社会参加が世の中に理解されてきた事を感じました。
  チェックインが少し早く時間があったので、レックスの排泄と私たちの夕食を兼ねて散歩にでかけました。ホテルのすぐ前の通りは古い商店が並んでいて軒の低さ、窓の格子それに間口の幅など古都の人々の生活の様子がうかがえました。通りを抜けると猿沢の池や興福寺のあたりにでてきました。あたりはもうすっかり暗くなっていて時々散歩をしている人の足音がするぐらいで静かな古都のたたずまいを感じました。レックスの排泄も無事にすんで夕食もすませ再びホテルに帰りました。いそがしかったけど好天に恵まれ充実した1日に感謝しながら奈良の夜を過ごしました。
  翌日の日程は未定でしたがホテルのフロントに定期観光バスに盲導犬を乗せてもらえないかどうか聞いてみました。早速奈良交通に電話で聞いてもらいましたがやはりと言うかダメでした。仕方ないから路線バスで行こうと家内に言うと、とにかくダメ元でいいから駅の観光案内所まで行こうと言いました。
  案内所に行くと係りの人が二、三人忙しそうに働いていました。
「定期観光バスに乗りたいのですが、盲導犬同伴なんですが」
と言うと
「盲導犬は路線バスはいいですけど観光バスは許可になっておりません」
と予想通りの返事が返って来ました。それでも係りの人は冷たく言ったのではなくむしろ気の毒そうに答えました。家内はそれでもがんばって
「では、なぜ路線は良くて定期観光がいけないんですか?」
と言いました。係りの人は
「乗客の人に犬を怖がる人がいるからです」
と答えました。
「それではお客さんにこの犬を見せて一人でも怖がる人がいたらやめますけど、乗客のみなさんがよかったら許可してもらえますか?」
と言いました。係りの人はしばらく考えていた様子でしたが
「わかりました。それではバスの運転手とガイドに電話しておきますからどうぞ」
と言って身障割引の手続きまでしてくれました。
  私は定期観光バスに身障割引がきくとは知らなかったけど思わず「ヤッタァー」と声を出しそうになりました。私は自分ならすでにあきらめていただろうし、つっぱる場合でも早口になったり声が大きくなったりしてダメになる事が多いのに・・・、スゴイカアチャンダと思いながら定期観光のバス停にむかいました。
  バス停に行くと運転手さんとガイドさんがニコニコしながら待っており、
「サアどうぞ」
と声をかけてもらい、また乗客の人達からも
「まあ可愛いワンチャンね」
の声をもらいました。
  そんな事で予想に反して?皆さんの歓迎を受けバスは出発しました。バスのコースは興福寺、大仏殿それに春日大社の三ヶ所で昼までのコースでした。心うきうきでガイドさんのかろやかな声を聞きながら最初の目的地興福寺へと向かいました。興福寺の国宝館ではほとんどガラスのケースや高いところにあり手にふれて見るものはありませんでしたが、ガイドさんの親切な説明がよかったです。東大寺では鹿さん達がレックスをみて驚いた様子で、みんな目をはなさずに遠くから警戒していたそうです。
  春日大社では本殿にお参りするときはタタミの上なので、レックスを入り口の柱につないで待ってもらいました。レックスも一緒に参ったらと言ってくれた人達もいたのですがさすがに神様の前まではと遠慮いたしました。参拝をすませた後、定期観光バスの予定になっているのでしょう、記念写真をとる所にいきました。写真屋さんがレックスをみんなの真ん中に入れてとってくれました。後で1枚1300円也の写真を注文したらみんな売り切れてしまったそうで
「盲導犬の人気が良かったのかも知れませんね。こんな事は珍しいですよ。後で送りますから」
とニコニコ顔で言われました。
  記念写真をとり終え後は奈良駅に帰るだけになりましたが、私たちはもう一つの目的地、薬師寺に向かうためここでレックスとなかよしになった人達とお別れすることになりました。みんながバスの中から手をふって見送ってくれた後、私たちはここから路線バスに乗って唐招提寺、薬師寺ヘと向かいました。 
  唐招提寺は工事中でよく見学できませんでした。ここから歩いて薬師寺に行くことにしましたが途中食事をすることにしました。例によって盲導犬の入店を求めたところ
「なぜそんなことを聞くの?あたりまえの事でしょう」
と言われビックリするやら感心するやらで、ここの食事は特においしかったです。そんな事もあってスッキリした気持ちで最後の目的地薬師寺に入りました。
  薬師寺は今から1300年前に建立されたそうで幾多の歳月にもまれながら今残っているのは東塔だけで西塔は平成になってから再建されました。今は大講堂が再建中でしたが私は寺院建築に興味があり法隆寺大工西岡棟梁の物語を朗読テープで知っていましたのでより感慨深く見学させてもらいました。
  金堂では多数の参拝者に薬師寺の案内を兼ねて法話が行われていました。その後法話をなさっていた僧侶の方にお願いして金堂内の展示物を手でさわらせてもらい、説明していただきました。その中で西塔の材料となった大きな桧の原木を輪切りにしたものが展示してありました。直径約3メートルぐらいあり中央は人が入れるほどの穴があいていました。このような良い材料と伝統の技術とがあってこそ1300年にも耐える建物ができたのだと思いました。
  次に印象に残ったのは西塔の屋根の上に立っている法輪の実物大のレプリカでした。天女が羽衣をたなびかせながら琴をかなでている様子などがすかし彫りにしてあり
手にふれて説明してもらい、とても楽しく見学する事ができました。
  そんな事で奈良の神社仏閣では盲導犬を拒否したところは一つも出会わずとても楽しい旅行ができました。晩秋にして好天に恵まれ人に恵まれ大仏様もニッコリほほえんでいたかも知れませんネ。帰りの新幹線の中でレックスは疲れたのか両手足を投げ出して寝てしまいました。ごくろうさんでした。

九州旅行記(1)

  東京都 Y.YAMAMOTO     
1.東京駅

東京駅の10番線のホームに上がってみる。夕方だと言うのに人気は少なく、平日のラッシュからは想像ができない静けさだ。土曜日と言うことと、10番線のせいだろう。ここは東京駅で東海道線のホーム。東京から西に向かう長距離の電車、特急そして寝台特急が発着している。ホームに立ち、すこしすると、伊豆の下田からきた「踊り子号」がついた。土曜の夜という事で、多くの乗客が電車から降り、吸い込まれるように階段に消えていき、そしてまたホームは静かになった。
  私はこれから九州に向かう。九州の友人たちと会うためだ。九州では福岡、熊本そして鹿児島と周り、鹿児島からは飛行機で東京に帰ってくる予定だ。私がこれから乗る特急は、寝台特急「さくら・はやぶさ号」、寝台特急は別名「ブルートレイン」と言われ親しまれている。私は寝台特急に乗るのは3度目だが、相棒の盲導犬「ケイル」は初体験。事前に停車駅と停車時間を調べてある。ホームで排泄をさせるためだ。自宅を出るときと、東京駅についてからもさせてある。東京から福岡までは16時間弱。列車の中で食事をさせるとなると、途中で排泄をさせたい。色々考え、停車時間4分の、名古屋でさせることにした。
  東京駅でお土産と、夕食の弁当を買った。以前は食堂車がついていたが、今ではロビーカーになってしまい、食堂車は無い。食堂車どころか、車内販売も1部の区間だけの販売となっている。食堂車で食事をすると言う楽しみがなくなったのは寂しい。以前乗ったときに食べた関門定食や、ビーフカレーが懐かしい。
  東京駅には乗車の1時間前についた。お弁当を買う時間もあったのだが、ホームでゆっくり出発までの時間を過ごしたかったためである。東京駅のこのホームは長距離専用であるが、上野駅の長距離専用ホームとは雰囲気が全く違う。行き先が東北と、東海・関西の違いだろうか。昨年の末、東北に帰っていった友人を上野駅に送りに行った。そこには、何か重い空気が満ちている。しかし東京駅には、静かながらも、明るさがある。同じ東京の駅でありながら、不思議なものである。
  ホームのアナウンスが、「さくら・はやぶさ」が入線してくることを告げている。目の前をゆっくり入ってきた。二度ほどエンジンの大きな音が横切った。電源車であろう。寝台特急はほとんどが電気機関車による牽引で走る。架線から電気を取り入れているが、それは走るための電気を取り入れているためで、客車の照明や空調などは、ディーゼルの発電機を使う。九州の鳥栖まで、さくらとはやぶさは連結されているので、電源車は2台である。静かに停止して、しばらくしてドアーが開く。私が乗るのは3号車。A寝台の個室である。個室は20年前に乗って以来、2度目。部屋の中は以前とさほど変わってはいないようだ。ふたがついた洗面台。ふたの上はテーブルとして使える。ソファー兼ベット。ゴミ箱などが部屋の設備。部屋の大きさは横が1メートル20センチ、奥行きが2メートルぐらいだろうか。この狭い空間で、福岡までケイルと過ごす。荷物を棚に乗せ、足元にタオルを敷き、ケイルのスペースを作る。しばらくして遠くで発車のベルが鳴り、「ガクン」と、すこし大きなゆれを起こして、列車は動き始めた。18時3分。定刻通りの出発だ。

 
2.寝台特急はやぶさ

寝台特急「さくら・はやぶさ」は、長崎・熊本行きである。「さくら」が長崎。「はやぶさ」が熊本行き。以前は別々の列車であったが、利用者の減少から併結され、九州の鳥栖まで連結し、そこで分割して、それぞれの目的地に向かう。私は福岡まで行くので、「さくら」「はやぶさ」のどちらに乗っても行ける。A寝台の個室は「はやぶさ」に連結されているので、しいて言えば「はやぶさ」に乗っていることになる。
  定刻に東京駅を出た「はやぶさ」は東海道線を西に向かう。私はポケットからラジオを取り出し、窓側に置いた。ちょうど始まったばかりのナイターをかける。個室なのでスピーカーから音を出す。リュックの中からは、お茶やお菓子を取り出し、テーブルの上にお弁当と並べた。お弁当を食べる用意は整った。車内検札が終わったら食べるつもりだ。次の停車駅は横浜である。横浜につく前に検札がきた。車掌さんに、名古屋でホームに下り、ケイルの排泄をさせたいこと。ロビーカーにある飲み物の自動販売機の場所と商品の配列を、手がすいてから教えてもらいたいことをお願いした。横浜を出てから来てくれることを約束してくれた。ロビーカーは隣の車両で動きやすかった。
  ロビーカーを案内してもらうまでに、お弁当を食べた。お弁当屋さんのお勧めの豚の角煮弁当。やはり旅行の楽しみのひとつはお弁当を車内で食べること。これを無くして旅行は語れない。雑音の入るラジオを聞きながらゆっくり食べる。お弁当を食べていると、「これから九州に行くんだな」とつくづく感じられた。やはり旅行とお弁当は切っても切れない物なのだろう。
  横浜を過ぎ、お弁当を食べ終わり、すこしすると、約束通り車掌さんが来てくれた。しかも2人で。自動販売機はロビーカーの先。そこまでのトイレや、ロビーカーの説明をしてくれた。自動販売機には、多くの飲み物が並んでいる。全部を覚えられないので、飲みたいものだけをいくつか覚えた。個室に戻り、部屋のドアーに印をつけたいと言うと、ノブに輪ゴムをつけてくれた。3号室なので部屋の数は数えやすいが、印をつけることで部屋探しがとても楽になる。
  部屋に戻って洋服をスエットに着替え、くつろげる体勢になる。ラジオから聞こえてくるナイターは、都心から離れるにしたがって雑音がひどくなる。ラジオを消し、カセットテープで小説を聞く。やはり列車の中なので、西村京太郎だろう。今回の旅行に二つのタイトルのテープを持ってきた。とりあえず名古屋までの時間を読書で過ごす。列車は熱海から静岡に入り、沼津・富士とすぎる。富士をすぎてからは、寝ている人もいると言うことで車内放送は無くなる。名古屋に到着したことは時間で確認しなければならない。一応車掌さんが来てくれることになっているが、もしものことを考え、自分で判断しなければならない。
  時々列車は駅に止まる。ホームの放送でどこの駅かわかる。寝てしまってはまずいので、携帯電話のスケジュール機能を使って、名古屋に止まる前にアラームがなるようにする。しかし気が張っていたのか、眠らずに名古屋につけそうだ。

 
3.トイレタイム

名古屋に到着する時間は22時46分で、停車時間は4分。22時40分になり、私とケイルは個室を出た。名古屋のホームでケイルに排泄をさせるためだ。車掌さんはデッキでも良いと言ってくれたが、私はそこではよくないと判断し、ホームでさせることにした。車椅子でも使えるくらいトイレが広ければそこでさせられたのだが、しかたが無い。ロビーカーとは逆に向かって歩く。進行方向とは逆の方向だ。デッキに立ち到着を待っていると、
「準備万全ですね」
と車掌さんが笑顔で声をかけてきてくれた。私は黙って笑顔で答えた。列車はゆっくりとスピードを緩める。夜のため車内放送は無い。ドアー越しに、ホームのアナウンスが聞こえる。この列車の案内だ。列車が止まり、程なくドアーが開く。さてここからが勝負だ!私とケイルは急いでホームに下りる。ハーネスを手早く取り、ワンツーベルトをすばやくつける。後はケイルの力を信じる。私は、落ち着いて声をかける。私がせかせか声をかけてはいけないと思った。しかし心の中では、「早くやってくれ!」と、願っていた。とにかく勝負は4分なのだ。いつもは4分以内でしてくれている。しかしそれは、制限時間が無いとき。時間が限られていると、この4分がとても短く感じる。
  ケイルは、私の周りを4回ぐらいまわり、何か目標を見つけたみたいだ。その目標に向かって足早に歩く。後からわかったのだが、その目標はホームの柱だった。ケイルはなんのためらいも無く、おしっこポーズ!「グッド!グッド!」の声にも心が入る。さほど量は多くなかったが、これで一安心。すぐ近くで見ていた車掌さんは、とても感心していた。ハーネスをつけ、ドアーに。車内に入り、時間を確認すると、所要時間はおよそ2分。余裕のトイレタイムだった。おしっこをトイレに流し、私とケイルはホッとして、個室に戻った。私は思う。ケイルがワンツーベルトで排泄ができて本当に良かったと。もしもできなかったら、ホームを汚さなければいけなかったのか。デッキで新聞やタオル、ペットシートなどを敷いてさせたのか?どちらにしても、大変な思いをしなければならない。いや、寝台特急で旅行自体できなかったかもしれない。盲導犬をもっと行動的にさせるためにも、排泄の問題を考えていかなければならないと思う。
  私もトイレを済ませ、ベッドに横になる。レールの響きが子守唄になり、いつしか眠ってしまった。朝起きたらどのあたりだろうか?

*「九州旅行記」は、全日本盲導犬使用者の会が管理運営するメーリングリスト(インターネットを利用して登録メンバーが自由に意見交換できる場)に掲載されているものを、山本恭之氏の許可を得て転載いたしました。
  全日本盲導犬使用者の会メーリングリストでは、いろいろな地域に住んでおられる盲導犬ユーザーの方々を中心とした活発な意見交換が行われています。参加申し込みはホームページから行うことができます。詳しくは、同会ホームページ
http://www2u.biglobe.ne.jp/~shudo/guidedog/index.html
にアクセスしてみてください。

犬の排泄物の便利な処理方法とその失敗例

最近は公園に「犬お断り」の立て看板が目立つようになり、出かけた先で盲導犬にトイレをさせる適当な場所を探すのに困っている盲導犬ユーザーもおられるのではないでしょうか。いくつかの盲導犬育成施設では、排泄させる時に犬にベルト(ワンツーベルトあるいはションベルトと呼ばれているもの)とビニール袋を付け、排泄物がそのままビニール袋の中に入るような方法を取り入れているところがあります。おしっこ、うんちが袋の外にもれず中に落ちるので周囲を汚すことがありません。また、袋の中身はそのままトイレに流したり、液体を固める凝固剤を袋に入れておけばおしっこはゼリー状に固まり生ゴミとして処理することができます。
  現在、この方法を取り入れている盲導犬育成施設出身のユーザーだけでなく、そういったユーザーから話を聞いてこの方法を利用しているユーザーもおられるようです。旅行中など知らない土地で苦労して犬のトイレ場所を探さなくてもよい、またいつものトイレ場所でもこの方法を利用すれば臭いが残らなくてよい、といった点がメリットとしてあげられるでしょう。また、自宅の風呂場などでもできるようにしておくと、雨の日も楽ですし、ユーザーが病気で寝込んでいるときも犬にトイレをさせるために寝巻きを服に着替えて、といったことをせずに犬のトイレを済ますことができます。
  一方、袋の中に排泄物が入ることで細菌感染の恐れがある、またどこでも排泄させることが出来るからといって不適切な場所で排泄させるといったマナーの低下を危惧するために、この方法の利用に躊躇あるいは反対するユーザーもおられます。
  細菌感染については、実際にこの方法を取り入れてから細菌感染を起こすケースが増えている、ということは聞きません。また、ホテルのロビーなど不適切な場所で犬にトイレをさせてしまうといったことは、この方法による弊害というよりは、そのユーザー個人のマナーに対する考え方に大きく左右されるものかと思います。
  ただ、このベルトと袋を使った排泄物の処理方法が絶対に周囲を汚すことがない、というわけではありません。ですから、この方法を利用する時でも、犬にトイレをさせる場所としては、マナーに反しない場所を選ぶことも大切ですが、もし失敗したときにも支障のない場所であることも必要です。では、どんなときに失敗し、袋の中に入っているはずの排泄物がこぼれて周囲を汚してしまうのか、その実例をいくつか挙げてみたいと思います。

  1. メス犬の失敗例
      ・うんちを先にして少し時間がたち、その間に袋がずれておしっこが袋の中ではなく外にもれた
  2. オス犬の失敗例
      ・片足をあげておしっこするので、外にもれた
      ・動き回ったりブルブルと身震いしたときに胴のまわりのベルトがずれて、ペニス
    が袋から外れてしまった
  3. オス・メスに関係ない失敗例
      ・袋が小さすぎて、おしっこがあふれた
      ・袋がやや小さすぎて、犬が動き回ったときやブルブルと身震いしたときにおしっこが袋からもれた
      ・袋が大きすぎて、おしっこが袋の中ではなく外にもれた
      ・慌てて付けたので、付け方が誤っていた
      ・カバンに入れている時などに袋をどこかにひっかけ、袋に穴があいていた

こうした失敗が頻繁に起こるわけではありませんが、そんなときのことも考えて適切な排泄場所を選ぶこと、時間に余裕をもっておくこと、適切な袋の大きさを知っておき、より快適な犬のトイレタイムを持つことは必要かと思います。

盲導犬情報ボックス(1)

ホテル・旅館等の利用に関する通達

「盲導犬を伴う視覚障害者の旅館、飲食店等の利用について」という当時の厚生省から出されている通達については『盲導犬情報』第24号の情報ボックスの中で紹介しました。今回は、旅行記を掲載したこともあり、当時の運輸省から出されている「身体障害者のホテル・旅館等の利用について」という標題の通達についてご紹介します。
  これは、社団法人国際観光日本レストラン協会、社団法人日本ホテル協会、社団法人全日本ビジネスホテル協会、社団法人国際観光旅館連盟、社団法人日本観光旅館連盟各会長に宛てて運輸省国際運輸・観光局観光部長から出されています。

  身体障害者のホテル・旅館等の利用について
     平成3年4月18日 国振第95号

 標記について、ホテル・旅館業等の公共的性格に鑑み、従来より、貴協会に対してできる限り便宜を図るよう指導方お願いしてきたところであるが、近時、観光に対するニーズの増大に伴い、身体障害者のホテル・旅館等の利用機会もまた増大している状況にある。このような事態に適切に対応するため、これらの利用者が安心かつ容易にホテル・旅館等を利用できるよう、改めて下記事項に留意され特段の配慮をされるよう、貴協会会員に対し周知徹底のうえ指導方よろしくお願いします。

  記
1.視覚障害者の施設利用について、ハーネス(引具)を装着した盲導犬(道路交通法(昭和35年法律第105号)第14条第1項に規定する政令で定めるものをいう。)又は介添者を伴うときには、他の利用客の利用にも配慮しつつ、積極的にその受入れに努めること。
2.車椅子利用者の施設利用について、その便宜を図るため、車椅子用トイレ、スロープ等、車椅子使用のための施設の改善に努めること。
3.身体障害者がホテル・旅館等の施設を利用するときの料金について、他の利用客と差別しないよう努めること。
4.上記1.〜3.までの措置をとるに当たっては、身体障害者の方々と十分に協議し、また、実施が困難な点についてはこれらの人々の理解を得るよう努めること。
5.上記1.〜3.までの措置をとった場合には、国民の理解を深める等の理由から
その旨周知させるよう努めること。


盲導犬情報ボックス(2)

日本の盲導犬使用者数

社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会盲導犬委員会の「2000年度盲導犬訓練施設年次報告書」を参考にして2001年度3月31日現在の日本の盲導犬使用者数を出すと、次のようになりました。

北海道:66 青森県:4 岩手県:9 宮城県:10 秋田県:16 山形県:4
福島県:8 茨城県:19 栃木県:15 群馬県:7 埼玉県:44 千葉県:24
東京都:70 神奈川県:41 新潟県:18 富山県:12 石川県:27 福井県:5
山梨県:15 長野県:27 静岡県:27 愛知県:38 岐阜県:10 三重県:10
滋賀県:6 京都府:21 大阪府:46 兵庫県:45 奈良県:9 和歌山県:9
鳥取県:5 島根県:7 岡山県:14 広島県:33 山口県:14 徳島県:7
香川県:6 愛媛県:15 高知県:7 福岡県:26 佐賀県:10 長崎県:10
熊本県:22 大分県:15 宮崎県:13 鹿児島県:20 沖縄県:6  
合計:892名          

日本に在住の盲導犬使用者は、892名。前年度に比べると27名増えています。1頭の盲導犬を夫婦・親子の二人で使用するタンデム方式の盲導犬使用者が17組いますので、盲導犬の頭数で数えると875頭。昨年より25頭増えています。タンデム使用者を育成施設別にみると、北海道盲導犬協会2組、日本盲導犬協会1組、関西盲導犬協会8組、日本ライトハウス5組、福岡盲導犬協会1組となっています。
  2000年度の盲導犬育成頭数は昨年と同数の124頭。その内、都道府県など公的助成を受けて育成された盲導犬は79頭。あとの45頭は、各盲導犬育成施設が独自に得た寄付などにより育成されています。
  また、新規の使用者のパートナーとなったのは60頭、代替えは64頭で、代替えの方が51.6%と新規よりやや多くなっています。また、2000年度に引退あるいは死亡した盲導犬は昨年より29頭少ない98頭、その内の34頭の盲導犬の使用者は代替えの盲導犬を希望しなかったか、希望しても代替えの盲導犬を得られなかったのではないかと考えられます。

こくちばん

「盲導犬に関する調査研究報告書」について

昨年8月に日本財団より「盲導犬に関する調査研究報告書」が出されました。その内容については、「盲導犬情報」第22号から28号の中で簡単にご紹介してきましたが、この報告書の墨字版を希望される方にお送りいたしますので、返信用封筒をご用意の上お申し込みください。なお、返信用封筒の大きさはA4版の報告書が入る大きさで、370円切手を貼っておいてください。また、報告書の点字版は残りわずかですので、ご希望の方は電話でお問い合わせください。

返信用封筒の送り先および問合せ先
  〒621-0027 亀岡市曽我部町犬飼未ヶ谷18-2
  電話:0771-24-0323

  (財)関西盲導犬協会・久保宛

編集後記

2001年5月16日付けの毎日新聞に「介助犬法案」の骨子が明らかになった、との記事が掲載されていました。先月末まで開催されていた「国会での成立を目指す」と報じられていましたが、実際は法案成立には至っていません。
 「介助犬法案」といっても、介助犬に限った法案ではありません。この法案の主たる部分は「良質な身体障害者補助犬の育成及びその利用の円滑化に関する法律案」であり、介助犬だけでなく盲導犬、聴導犬など「日常生活に著しい支障がある身体障害者のためにその障害を補う補助を行う犬」を「身体障害者補助犬」とし、国等が管理する施設及び公共交通機関における同伴拒否は禁止、また使用者には「犬の行動の管理、衛生の確保」について、育成者には「良質な犬の育成」について責任があることを明確に述べています。
 盲導犬同伴拒否を禁じた法律の成立を求める声が以前からありました。そういう意味では望まれる法案成立です。また、盲導犬という呼び方に抵抗がある、何かいい呼び方はないか、という声もよく耳にします。しかし、かといって「身体障害者補助犬」というのもどんなもんでしょう・・・。視覚という感覚、聴覚という感覚、あるいは運動機能に障碍があるといっても、それぞれに異なった不自由さ、困難さがあります。
 犬だからと一括りにしてしまっては、かえって問題が見えにくくなってしまうようにも思うのですが・・・。(久保)