盲導犬情報 第31号(2001年10月)



内容




タンデムでの盲導犬の利用について(1)

前号の「盲導犬情報ボックス」の中で、日本の盲導犬使用者数についてご報告しま した。その説明の中で、「2000年度末現在の日本の盲導犬使用者は892名」しかし
 「タンデム方式の盲導犬使用者が17組いるので、盲導犬の頭数で数えると875頭」
 という記述を不思議に思った方もおられたのではないかと思います。1頭の盲導犬を 夫婦・親子の二人で共用するというこの方法を取り入れているのは、北海道盲導犬協会、日本盲導犬協会、関西盲導犬協会、日本ライトハウス、福岡盲導犬協会の5施設 で、現在タンデムユーザーは17組おられます。
 タンデムという呼び方は、二人乗り用の自転車をこう呼ぶことから、それに似てい るということで名付けられました。このタンデムユーザーが初めて誕生したのは、1985年、関西盲導犬協会でのことです。ただし、最初からタンデムでの形式を考えて行われたわけではなかったようです。共同訓練を受けていた夫に付き添って訓練センターに来られていた奥さんが「私も盲導犬との訓練を受けたい」と申し出られたことが、そもそもの始まりです。「盲導犬1頭に対して盲導犬ユーザーは1人」という考え方が当たり前だった当時は、このタンデムという方法に否定的な意見も多々あったようですが、夫から妻へ、妻から夫へとハンドラーが変わっても、正しい命令に対 して盲導犬は従来の作業をきちんと行うことが確認され、現在の17組のユーザー誕生に至っています。
 複数の盲導犬育成施設で取り組まれるようになりタンデムユーザーも増えてきていることから、今回、タンデムユーザーの方々にアンケート調査にご協力いただきました。タンデムでの盲導犬使用について、具体的なご意見もいただきましたので、ご紹介したいと思います。

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  1. 調査の目的
      タンデムで盲導犬を使用しているユーザーの方から実際の使用状況やご意見を伺い、 そのメリット・デメリットについて明らかにすることを目的とする。
  2. 調査対象
      各協会で歩行指導を受けられたタンデムの盲導犬ユーザー
  3. 調査方法
      アンケート用紙をそれぞれの自宅に郵送。ご夫婦(親子)別々に回答してもらい郵送にて返送。
  4. 調査期間
      2001年9月〜10月
  5. 回収率
      送付したアンケート用紙は16組32通。うち回答があったのは、14組26名。回収率81.3%。

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a.回答者のプロフィール
  1. あなたの性別についておたずねします。
       男性・・・13名
       女性・・・13名
  2. 現在の盲導犬はあなたにとって何頭目ですか?
       1頭目・・・・・12名(46.2%)
       2頭目・・・・・ 9名(34.6%)
       3頭目以上・・・ 5名(19.2%)
  3. 盲導犬と歩くようになって何年ですか?
       1年未満・・・・・・・・ 5名(19.2%)
       1年以上5年未満・・・・ 1名(3.8%)
       5年以上10年未満・・・11名(42.3%)
     10年以上・・・・・・・ 9名(34.6%)
  4. タンデムのユーザーとなって何年ですか?
       1年未満・・・・・・・・ 6名(23.1%)
       1年以上5年未満・・・・ 0名
       5年以上10年未満・・・13名(50%)
       10年以上・・・・・・・ 7名(26.9%)
  5. 盲導犬を使用する動機は何でしたか?(複数回答)
       単独歩行をしたかったから・・・・・・・14名(53.8%)
       タンデムでの利用を知ったから・・・・・ 8名(30.8%)
       配偶者以外の盲導犬ユーザーの勧め・・・ 2名(7.7%)
       盲導犬ユーザーだった配偶者の勧め・・・ 1名(3.8%)
       その他・・・・・・・・・・・・・・・・ 3名
  6. 盲導犬を使用する以前は、主にどのような方法で外出されていましたか?
       白杖と手引き・・・15名(57.7%)
       主に白杖・・・・・ 7名(26.9%)
       主に手引き・・・・ 3名(11.5%)
       白杖などの補助具は使っていなかった・・・ 1名(3.8%)
B.タンデムでの利用状況
  1. どのスタイルで盲導犬と歩いていますか?
       一人で盲導犬と歩くこともあるし、どちらかが盲導犬と歩き、その手引きを受ける形で二人一緒に盲導犬と出かけることもある・・・・・・・・24名(92.3%)
       一人で盲導犬と歩くスタイルのみ・・・・・・ 2名(7.7%)
       二人一緒に盲導犬と出かけることはあるが、一人で盲導犬と歩くことはない・・・ ・・0
  2. どちらの方が、盲導犬と歩く頻度が高いですか?
       自分の方が高い・・・・・・9名(34.6%)
       自分の方が低い・・・・・・7名(26.9%)
       どちらも同じくらい・・・・8名(30.8%)
       二人一緒に出かける頻度がもっとも高い・・・2名(7.7%)
  3. どちらの方が、盲導犬と歩く時間が長いですか?
       自分の方が長い・・・・・・11名(42.3%)
       自分の方が短い・・・・・・ 8名(30.8%)
       どちらも同じくらい・・・・ 4名(15.4%)
       二人一緒に出かける時間がもっとも長い・・・2名(7.7%)
  4. 盲導犬の世話は、主にどちらの方がすることが多いですか?
       自分がすることが多い・・・・ 8名(30.8%)
       自分がしないことが多い・・・ 7名(26.9%)
       どちらも同じぐらいしている・・・11名(42.3%)
  5. 命令に対する犬の反応に違いはありますか?
       自分の命令の方が反応がよい・・・・10名(38.5%)
       自分の命令の方が反応が悪い・・・・ 4名(15.4%)
       どちらともいえない・・・・・・・・14名(53.8%)
  6. 命令に対する反応に違いがあった場合、盲導犬としての作業に影響はありますか?
       安全な誘導に支障をきたすほどのことがあった・・・・・・・ 1名(3.8%)
       作業面では問題にはならないが生活面で困ることがある・・・ 2名(7.7%)
       作業面でも生活面でもそれほど問題にはならない・・・・・・18名(69.2%)
  7. タンデムで盲導犬を使用する長所は、どんなことだとお考えですか?(複数回答)
       犬の世話を分担できる・・・・・・・・20名(76.9%)
       1頭分のスペースですむ・・・・・・・15名(57.7%)
       1頭分の経費で二人が使用できる・・・11名(42.3%)
       その他・・・・・・・・・・・・・・・ 4名(15.4%)
      ・使用者が病気などしたとき、もう一人の使用者がいるので安心できる(2名)
      ・盲導犬を同伴出来ない場合、もう一人の使用者がいるので安心しておいておける(2名)
      ・犬が病気の時や外出先でトラブルがあったとき、二人で話し合って冷静な判断ができる
      ・私たち夫婦は自宅で開業しているため盲導犬1頭で用が足りると思う
      ・人間の子供と同じように一方が厳しく(主に夫)他方が優しく、その調和で犬の
    精神が安定する
  8. タンデムで盲導犬を使用する短所は、どんなことだとお考えですか?(複数回答)
       違う場所に同時に外出するとき・・・・・・・10名(38.5%)
       自分と相手とでは犬の反応が違う・・・・・・10名(38.5%)
       犬の世話などを相手にまかせがちになる・・・ 6名(23.1%)
       その他・・・・・・・3名(11.5%)
      ・盲導犬とあと二人連なって歩く場合はかなり歩きにくい。真ん中に立つ人は左手のハーネスに集中したうえで横もしくは後ろにつながる人との確実な連携が取りにくい。そのため狭い通路や交通量の多い道などでは危険を感じることがある。
      ・行く場所や使用交通機関、長く待たせるかどうかなど二人の使用パターンが違うので犬によっては向き不向きがある。
      ・使用者両者の犬に対する接し方にアンバランスのないようにしないと歩行面では変わらないが家における生活面では一方に甘えがちになることに注意。
  9. 将来代替えの盲導犬を希望されますか?
       タンデムでの代替えを希望する・・・・・12名(46.2%)
       自分だけが代替えを希望する・・・・・・ 4名(15.4%)
       自分だけが代替えを希望しない・・・・・ 2名(7.7%)
       どちらも代替えを希望しない・・・・・・ 2名(7.7%)
       その他・・・・・・・・・・・・・4名(15.4%)
  10. そうお考えになった理由をお聞かせください。
    <タンデムでの代替えを希望する理由>
      ・世話を分担することができる(2名)
    ・一匹分の経費ですむ(2名)
      ・スペースがいらない(2名)
      ・二人の使用者だと相談や援助ができるなどメリットの方が大きいから。
      ・二人とも盲導犬歩行が必要です。又タンデムで使用しても何ら問題なくやってきたから。
      ・何事も分け合うことができ犬に振り回されないで良い。
    <自分だけが代替えを希望する理由>
      ・配偶者の体調不良
    <どちらも代替えを希望しない理由>
      ・いっしょに暮らしてみてわかったことなのですが、世話をするのに時間がかかりすぎることです。家の中で一緒に暮らしています。抜け毛とにおいとの戦いです。住居の一部屋が治療室なので衛生面で非常に気を遣わねばなりません。そういう視点からみても、単独での盲導犬の使用者になっておられる方々は盲導犬の世話と仕事の両立をどう図っておられるのかと考えることがあります。
      ・盲導犬は約10年間働いてくれるときいていますが、これから先10年間健康に自信が持てなくなった。また、盲導犬と暮らしてみて、そのマナーを守っていくにはかかりすぎる(主に時間)。仕事量を減らしてやってきました。それに、ちょうど介護保険が使えるようになったから。

盲導犬ユーザーの旅行記

九州旅行記 (2)

東京都 Y.YAMAMOTO
4.九州上陸

列車のゆれで目を覚ます。電気機関車による牽引なので、動き始めるときに、「ガクン」としたショックがおこるのは仕方がない。何度かの目覚めではっきりと目覚めてしまった。時間を見ると、朝の4時30分。今はどの辺を走っているのだろう?広島あたりだろうか?
  空調のせいだろうか、のどが渇いている。乗車前に買った飲み物はすべて飲み尽くした。ロビーカーの端にある自動販売機に行くことにした。私がごそごそやり始めたのでケイルは出かけると察知し、やる気満々ポーズをとる。このポーズは前足を伸ばし背伸びをするのだが、私はこれを「やる気満々ポーズ」と言っている。
  静まり返っている通路に出てロビーカーに向かう。ロビーカーには、話し声は聞こえなかったが、何人かはいるようだ。眠れなくてタバコを吸いに来ているのだろうか?
車掌さんに教えてもらったボタンを押そうとしたが、間違えて違うボタンを押す。とりあえず2本買い、部屋に帰る。ジュースをテーブルにおき、ハーネスを外しダウンさせる。間違えて買ってしまったのをあけてみる。コーラだった。もう1本はコーヒー。これは朝食の時のためにとっておく。コーラを飲み終え、トイレに行き、再びベッドに横になる。
  再び目が覚めたら、7時を回っていた。列車のゆれで目が覚めたのか、それとも車内放送が始まり、それで目が覚めたのか。通路ではお弁当を売る声も聞こえる。途中の駅から乗ってきたのだろう。しばらく横になったままでいる。山口県の駅をいくつかすぎていく。トイレを済ませ、朝食にする。朝食は前日に買っておいた菓子パン。そして先ほど買ったコーヒー。窓の外からは暖かい日差しが入ってくる。とうぶんは雨に降られることはなさそうだ。
  8時36分、下関に到着。ここで、関門トンネル専用の機関車に付け替える。あっという間にトンネルをすぎて、ついに九州上陸。8時46分、門司に到着。ここでまた機関車を付け替える。そして2時間ほどで福岡へつく。
  このはやぶさは寝台特急だが、朝になると1部の寝台を座席に変え、普通の特急電車として走る。勿論個室はそのまま使える。通路を歩く人が増えた。途中から乗ってきた人なのだろうか?
  福岡着は9時53分。9時30分になり、洋服を着替える。ケイルは降りることを察知し、お約束のポーズ。テーブルに出したものをリュックにしまい、準備を整えた。車掌さんは、降りるときも来てくれるとは言ってくれたが、5分前になってもこない。スピーカーから、福岡につくことを告げている。荷物を持って、ケイルと私は通路に出てデッキに向かう。デッキには何人かがすでに到着を待っていた。列車がホームについたが、車掌さんは結局こなかった。ケイルにとって長い16時間が終わった。昨夜、名古屋で排泄は済ませたが、たまっているだろう。急いで改札に向かう。改札で友人のBさんと待ち合わせをしていたが、Bさんは来ていない。携帯電話を取り出し、BさんにかけようとしたときBさんから電話が入った。改札が違ったみたいだ。程なくBさんが来て、急いで外へ。駐車場の片隅で、ケイルのトイレをさせる。かなりたまっていたみたいだ。これでケイルも私もすっきり。Bさんの車に行くと、Bさんの飼っている、黒ラブのビリーが迎えてくれた。ビリーは犬見知りするけど、ケイルはだいじょうぶのようだ。私たちは、友人のTさんのお店に向かった。

5.めんたいこOFF

今回の主たる目的は、Tさんのお店でのOFF会。何のOFFかと言えば、ケイルの友人たちの集まりです。ここで「OFF会」について簡単に説明しましょう。これはインターネットで使われる用語で、会員同士が情報の交換を電子メールで行うメーリングリストや、掲示板や伝言板などと言われる意見の書きこみができる場所などを「ON(オン)」というのに対して、直接、人々が会って話などをするのを「OFF」とか「OFF会」といいます。私は単なる付添い人。ケイルの友人、いや友犬には、ケイルと同じラブ、シェパードなどいます。また人間の友人もたくさんいて、もてもて野郎です。付添い人の私もしばしばやきもち。
  さてTさんのお店は、福岡の大壕公園(オオボリコウエン)の近くにあります。お店には犬グッズを売っていて、食事もできます。もちろん犬連れOK。普段は特別扱いの盲導犬であるケイルもここでは普通扱い。お店に人間7人、犬5頭が集まりました。1年ぶりの再会です。
  私が盲導犬と歩くようになり、安全に安心してあるけるようになったことは当然ですが、副産物として友人がたくさんできました。ぎこちない人と人とのあいだも、犬があいだに入ると、スムーズにいくようになります。もちろんこれだけ友人ができたのは、インターネット・ホームページのおかげでもあります。また、盲導犬について、話をしてもらいたいという、学校からの要望により各学校に行ったりすることも、友人を増やすことになりました。街中を歩いていても、声をかけられたり、挨拶をしてくれる人も増えました。盲導犬を持つことによるメリットは、想像以上のものでした。
  そんな楽しいことが次から次と出てくる、打ち出の小槌のようなケイルと、彼の友人たちを大事にしていきたいと思っています。また彼の友人たちはいい人ばかりで、話していて、いや近くにいるだけで、暖かく幸せになれます。ですからまた来てしまったのでしょう。言い忘れましたが、このOFFの名前は「めんたいこOFF」。今年は第2回です。来年も必ずやります。お近くの人はぜひ来てください。遠い人も待ってます。
  お話や食事を済ませ、皆で大壕公園へ行きました。去年の第1回は、この公園でした。友人の中に、フリスビーをやっているペアーもいまして、フリスビーで遊んだり、 ボール遊びをしたり、時間を過ごしました。私もフリスビーに挑戦!もちろんケイルの出番はありません。臨時にシェパードのバンちゃんとペアーを組み、やり方を教えていただき、初めての経験。フリスビー自体は、中学の時にはまっていましたから、投げ方はばっちり。しかし、急造ペアーは、やはりダメでした。遊ぶにしても、ゲームをするにしても、盲導犬と歩くにも、やはり気持ちが通じないとダメなようです。もしもケイルと楽しめたらとても良いだろうな。なんてかなわぬ思いをしながらフリスビーで楽しんでいる犬たちを眺めていました。
  夕方になり、解散となりました。来年も来ることを約束して、それぞれの家路に向かいます。私は、Tさんともう1度お店に戻り、従業員のユキちゃんと3人で、博多ラーメンを食べに中州に繰り出しました。やはり博多に来てラーメンを食べないわけには行きません。もちろん替え玉しましたよ。

6.福岡から熊本へ

今日は福岡から熊本へ移動。午前中にTさんのお店に寄ってから、福岡駅へ向かう。Tさんには1宿2飯のお世話になった。お店の近くに止めてあった車の脇で、ケイルのワンツーを済ませる。お土産にめんたいこを買いたかったが時間がないため、Tさ んにお金を渡しあとから送ってもらうことにした。福岡駅にもめんたいこは売っているのだが、私が買いたいめんたいこは駅には売っていないようだ。駅に着き、切符を買い、Tさんとホームへ。これから乗る特急つばめはまだきていない。売店でお弁当 と飲み物を買っていると、特急は入線してきた。停車時間が少しあるので、Tさんは車内まで送ってくれた。座席に座り、別れの挨拶。長く一緒にいると別れがつらくなる。Tさんからも別れ惜しい気持ちが伝わってくる。何度も何度も同じ言葉の繰り返し。思いを振り切るように、車内から出て行った。まだ時間はある。Tさんは窓の外にいるのだろうか?見えない視線をホームに送りTさんを探す。すると、Tさんが車内に現れた。売店からチョコレートを買ってきたのだ。
「これ食べて」
そう言ってまた出て行った。今度は窓の外にいるようだ。こつこつと窓をたたく。私は笑顔と、恥ずかしさのため小さくなった手を少しだけ振る。やがて、発車のベルとアナウンスに押されて、つばめは静かに動き始めた。視線をTさんの方に向けながら手を振る。今度は先ほどよりも大きく、高く振る。
  熊本には、午後3時ごろ着いた。今からでは市内観光はちょっと無理だろう。熊本の友人と食事をする約束を7時に入れていた。ホテルに7時少し前に迎えにきてくれる手はずになっている。熊本駅からホテルに向かうタクシーの中で、運転手さんが簡単な案内をしてくれた。熊本は初めてだったので、熊本城と水前寺公園に行ってみたかったが、今度きた時にとっておこう。
  ホテルはインターネットで調べた。福祉に力を入れていて、バリアフリーを目標としているようだ。もちろん盲導犬もOK。ホテルの名前は、「アークホテル熊本」とても清潔で、従業員の接客態度もとてもよかった。部屋の大きさや、エレベーターからの移動のことも考慮してくれて、とても助かった。
  ケイルのトイレをバスルームで済ませ、部屋で少し休み、シャワーを浴び、迎えがきてくれるまで、1階のロビーでコーヒーを飲みながら時間をつぶした。

盲導犬ユーザーの経験談ー盲導犬が体調を崩したときー

レックスの病気

広島県 小畑 昌弘

平成12年11月初旬のある日、いつものように治療院の仕事をしていたら私の父が
「レックスのようすがどうも変だ。ひどく元気がないようだ」
と言ってきました。
  私は今朝起きてからレックスの排便、食事、通勤といつもと変わりがなかったけどなぁと思いながら治療をすませた後、レックスのいるところへ行ってみました。レックスはダウンして寝ていましたが、鼻水かヨダレかわからないけど床がベットリぬれるほど出ていました。私は風邪でもひいたのだろうとその時は気になりませんでした。二、三日たってどうも具合がよくないらしく、ヨダレも止まらず口をモグモグさせているので心配になり、家内に口を見せたところ
「下顎の前歯の下に赤い腫れ物ができているよ。黒い点のようなものがあるので肉芽かも知れない」
と言いました。私はいやがるレックスの口をあけ前歯の下のはれた部分をさわってみると、そら豆大に腫れていて少し固く芯があるように思われました。「肉芽?ガン?そんなバカな!今、一番働き盛りなのに……」など、いろんな事を思いながら、翌日かかりつけの動物病院に連れていきました。
  先生はレックスの腫れものを見て
「これは腫瘍かも知れない。手術をして細胞の検査をしてみなければなりません」
と言われました。私は予想はしていたもののその言葉を聞いた途端、顔があつくなり頭に血がのぼっていくのがわかりました。私は
「今すぐ手術というわけにはいきませんが、早めに決断したいと思いますのでその時はよろしくお願いします。それでとりあえず痛みだけでも取ってやって下さい」
と言いました。そんな事でその日は抗生物質か鎮痛剤かわからないけれども十日分の薬をもらって帰りました。
  それから1週間ぐらいすると真っ赤に腫れた部分の色はかなり薄くしかも少し小さくなっていました。この間、レックスの食欲と排便はいつもと変わりなかったので気分的には楽でした。私はこの秋は小学校の講演会に出かけることが多くレックスの健康状態が気になるところでしたが、もともとおとなしい性格の犬でしたので元気がないとは思いませんでした。学校に行っても人に会ってもレックスの口の事はずっと黙っていました。そして12月の初め頃になると、その腫瘍はより大きくなり下唇が前にむきだしになって顔はゆがみ人にわかるようになってきました。
  12月9日、初冬にしてはあたたかい日でした。私の父の運転する車でレックスの腫瘍の手術をしてもらいに行きました。先生は冷静沈着な口調で病態を説明し「この様子では歯槽骨までも進んでいるかも知れません。歯も取れるかも知れません。 できるだけ被害を最小限にやってみたいと思います。11時頃から手術を始めます。麻酔がさめて午後3時頃には立ち上がることができると思います。夕方にあなたの都合の良い時間に連れに来て下さい。よろしいですか?」
と言われました。私は
「お任せします。よろしくお願いします」
と答えてリードを渡して出口に向かいました。そのときレックスは悲しい声で小さくクーンクーンとなきました。後で父にその様子を聞いたら、何度も何度も私の方をふり返りながら奥の部屋に連れられて行ったそうです。治療室に帰ってもレックスの事が気になって仕事がなかなか手につきませんでした。今頃レックスはどうしているだ ろうか?もし麻酔が覚めずにそのまま死んだらどうしよう。どうしてこんな事になったのか。太り過ぎがいけなかったのか等々・・・、夕方までの時間がずいぶん長くとてもつらく感じました。やがて午後3時過ぎになり一刻も早く連れに行きたかったけど、できるだけゆっくりさせた方がいいかも知れないと思い、はやる気持ちを抑えながら夕方5時頃レックスを連れに行きました。
  動物病院でレックスに会ったときは、私の予想した状態よりははるかに元気な様子でした。どうしてレックスだけをおいて行ったんだ、と言わんばかりにしっぽを激しく振って喜んでくれました。「よしよし、グッド、グッド」と背中をなでているうち落ち着きを取り戻したところで先生から説明がありました。
「腫瘍の芯は意外に深かったけど太い血管をうまくよけて切除できました。この分では歯にも影響は少なく食事もいつもの通りで良いでしょう。傷口の縫合した糸はそのまま結合組織になるので抜糸の必要はありません。切除した組織を細胞検査に出しますので、1週間ぐらいして薬がなくなった時その結果お知らせいたします。後はいつもと同じようにして良いと思います」
と言われました。ヤレヤレこれでひと安心、いつもと同じで良いのなら歩いて帰ろうかなと思いました。
  歩行についてもヒョロツク事もなくスタコラサッサで家に着きました。食事にしてもいつもの水かけフードを「今日口を手術したのに、よくもまあそんな調子で食べられるもんだ」と思うほど見事というか立派というか、その食べっぷりに感心するやら安心するやらでした。そんな事でこちらの心配をよそに、いつもと変わる事なく元気に過ごすことができました。
  手術から1週間たって傷口の具合と細胞検査の結果を聞くため先生のところへ行きました。検査の結果は「白でもないが黒でもない」と言うことでした。はっきりガンだと断定されなかっただけでもよかったけど、妙な結果だナーと思いました。「ハッキリわからないと言えばいいのに。マアこちらでは「シロ」と断定しておけばいいんだ。あまり深く尋ねても医者は希望的な意見は言わないし、心配や不安がふえるだけだ」と思いました。ヤレヤレひと安心という気持ちで、そして逃げるような気持ちで家に帰りました。そんなことでレックスの手術後の経過はよく、食欲も排泄も変わりなく、とてもガンを思わせるようなところはなく、何とか無事に新年を迎えることができました。
  年が明けて平成13年2月には京都でレックスのパピーウォーカーだった伊藤さんの写真展があり、家内とレックスと3人で出かけました。会場で伊藤のパパとママに出会うとレックスはシッポを激しく振って喜びました。また盲導犬訓練センターの所長さんにも会うことができました。とても楽しい旅行でレックスの病気の事などすっかり忘れていました。
  それから約1ヶ月ぐらいたった3月中旬のある日、いつも寝こけているレックスのそばを通ったら、口をモグモグさせているのに気がつきました。「まさか!」と思ってレックスの口をこじあけ手術のあとのところを恐る恐るさわってみました。するとやはり、というか遂にというか、あずき豆ぐらいの大きさにふくれているものができていました。「ウーン、どうしよう。すぐ獣医さんの所へ駆けつけても結果はわかっているしナ、どうしよう?」と思いながら、しばらく様子を見ることにしました。そうこうするうち呉地方に大きな地震があったりしましたが、我が家は何とか無事に過ごすことができました。レックスの調子はいつもと変わりありませんでしたが、口元は次第に腫れ上がり、前回の手術前のようになってしまいました。
  4月10日、恐る恐るという感じで再び動物病院へ連れて行きました。先生はレックスの口を見るなり
「これは悪性だと思います。手術して3ヶ月で再発しています。それも同じ所に・・・。下顎骨まで転移しているかも知れません。私の病院では処置できません。引退も含めて考えねばなりません。どうされますか?」
と言われました。私は
「どうされますかと言われても、どうしてよいか分かりません。私の一存で決められない所もあるので、盲導犬訓練センターに相談したいと思います」
と言いました。すると先生はすぐに訓練センターに電話を入れてその事情を詳しく説明して下さいました。その時の電話の相手はたまたま所長さんで「使用者の希望に任せる」ということでした。
  先生はさらに次のように説明して下さいました。東京の麻布にある獣医大学に行けば徹底的に抗ガン治療を行います。そこは細胞レベルまでみながら下顎骨にガンの転移があればその除去手術を行います。近くでは山口大学の獣医学部ではかなり進んだ点滴による抗ガン剤治療をやっているようです。など怖いことばかり教えてくれました。
  私は
「下顎の骨まで取っても抗ガン剤治療をやっても治る保障はないし、むしろ生体を衰弱させ死期を早めるだけだと思います。前回のように腫瘍の部分だけ取ってやって下さい」
と言いました。先生はこれを了承して下さり、手術を明日の11時ということで家に帰りました。下顎骨を取るだなんてとんでもない!抗ガン剤なんて絶対イヤだ!腫瘍ができたらその部分だけ取ればいい。動けなくなったらその時に考えればいい。まだこんなに元気に働いてくれるのに・・・。抗ガン治療なんて絶対させるもんか!何度も何度もそう自分に言い聞かせました。
  家に帰って家内に今日あった事を話ているうち
「何がイケなかったのか・・・、もっと早く獣医に見せればよかったのか・・・、たった6年もたたないうちにリタイアだなんて。それもガンで・・・。盲導犬なんて飼わねばよかった」
などとついグチをこぼしてしまいました。家内はそれを聞いて
「トウさん、あなたは盲導犬の使用者なんでしょう。そんなことを言っていたらダメよ!多くの使用者は何人もそのような事に出会っているはずよ。それでも負けずに2頭目、3頭目とがんばっているわヨ」
と言いました。
「うるさい!アンタにワシの気持ちなんかわかるもんか!」
と言いたかったけど事実その通りなので、黙って隣の部屋に行って寝ました。
  翌日、予定通り動物病院へ連れて行きました。2回目の手術でもあるし前日すべて話してあるので、「よろしくお願いします」とだけ言ってレックスをおいて帰りました。そして前回同様、夕方に病院へレックスを連れに行きました。先生は「前回手術した跡のところで歯肉が薄く難しい手術でした。歯はたぶん大丈夫だと思います。縫合については最後のところが歯根に近かったので、もう一針できませんでしたので多少出血があるかも知れません。今回は細胞検査はいらないと思います。十日分の薬を出しておきます。傷が治れば見せに来なくていいです」
と淡々と、しかも丁寧に言われました。
  それからもう2ヶ月過ぎました。はじめの頃はやはり手術は体力を消耗するのか、2、3キロやせて頭や背中の骨が出ていましたが、今ではもとの体重に戻りました。そしていつものように寝こけているレックスを見ていると、もし自分がガンの宣告を受けたときどうするだろうか、レックスのように悪いところだけ切って下さいと言うだろうか、抗ガン治療をしないでくださいと言えるだろうか、元気なときはどうせいつかは死ぬのだから、痛みと苦痛だけを取ってもらえばいいと思うのだが・・・。まあ誰しも先の事などわからないわけだし、その日が幸せに暮らせたらそれでいいよネ、いろいろ勉強させてもらいましたと、思わずレックスの頭をなでてやりました。

(情報室:注)この原稿をいただいてから掲載までに4ヶ月が経ちました。先日電話でお尋ねしたところ、レックスの体調に変化はなく元気に過ごしているそうです。

イシュタル糞戦記

広島市 泉川 悦雄

9月9日で、あたいは5歳になったので、人間ならば30歳くらいに相当するそうで、女盛りというところでしょう。ところが、あたいは小さいときに手術を受けているので、女性としての色気は未だにありませんが、最近は女の人並みに便秘をするようになり、とうちゃんを悩ませています。
  6月のはじめに三日も通じがなくて、四日目の朝にやっと出ました。これまでも、二日程度の便秘は時々あったので、あたいもとうちゃんも別に気にもしませんでした。しかし、四日目にあってから、さらに三日四日と出ないと、さすがにとうちゃん達も気になるとみえて、話題と言えばあたいのうんこのことばかり。
  「場所が悪いのかもしれんから、公園に連れていって広いところでさせてみては・・・」とか「ドッグフードばかりだから野菜も食べさせてやったら・・・」と言って、早速おやつ代わりにあまりおいしくもないのにキャベツを食べさせられました。そして、いろんなところに連れて行かれ、耳にタコができる位、しつこくうんこをするように言われたけど、全く出る気配はありません。
  ついにたまりかねて、とうちゃんの奥の手が登場となりました。
「糞こんとっとと出て失せろ、糞こんとっとと出て失せろ・・・」
と呪文を唱えながら、腰やお腹にちょんちょんと鍼をさされたのです。
  かつて湿疹や風邪ひきにはすぐに効いたのに、残念ながら便秘には全く効果がみられず、とうちゃんもがっかりしていて気の毒でした。
  6月12日から視障協老人部の旅行で、あたい達も皆生温泉に行けることを楽しみにしていました。それだけに、このままでは旅行先で人に迷惑をかけるようなことがあっても困るし、また何らかの病気で糞詰まりでも起こしているのではなかろうかととうちゃん達も悩んだ末に、11日の朝、かかりつけの病院に連れて行ってくれました。
  とうちゃんが経過を報告し、明日から旅行に行くので困っているとのお願いをしてくれました。先生は診察の結果、
「なにも問題はないから単なる便秘でしょう。盲導犬だから下剤が使えないので浣腸をしましょう。それでも出なかったら、夕方もう一度連れてきなさい」
と言って、お尻にちゅうっと浣腸をされました。とてもこわかったけどおとなしくしていたので、先生にほめられちゃったよ。
  おうちに帰ってから何度も連れて行ってもらったけど、全く出る気配はありません。そこで再び病院に連れて行かれ、今度は何をされるのかと思っていたら、2本も浣腸をされ、
「もし、これでも出なければ、おとうさんが明日の朝から浣腸をやりなさい」
と言って4本ももらって帰りました。
  しかし、お医者さんの浣腸の甲斐もなく、その夜はついに出ませんでした。これで六日も通じがないというのに、あたいは別にかわったこともなくへっちゃらだったけど、さすがにとうちゃんは万策つきて心配で、その夜は眠れなかったみたい。
  ついに、旅行に出かける朝をむかえました。とうちゃん達の気配でそのことがあたいにもわかり、わくわくしてうれしくて落ち着きません。朝食を早めにいただき、うんこに連れて行ってもらったら、緊張したせいか七日ぶりについに出たのです。
  とうちゃんは、ビニールの袋にうんこを入れて、宝物でも拾ったみたいに嬉しそうにそれをあたいの鼻先に持ってきて、
「グーッド、グーッド。よかった、よかった。おめでとう」
と言って、あたいに抱きつき、涙を流さんばかりに喜んでくれました。
  すぐにかあちゃんに向かって、
「出たよ、出たよ!」
と大声で騒ぐもんだから、かあちゃんも飛んで来て、あたいの体中をなぜまわし喜んでくれました。まるで、あたいが赤ちゃんでも産んだみたいな騒ぎだったよ。
  これであたい達は、気分良く旅行に出かけることが出来ました。皆生温泉のホテルは、松風閣という純和風のだいぶん古い建物だったけど、あたい達にはおあつらえむきでした。1階だったので縁側の板の間にあたいは陣取り、松林のある庭に直接出られたのです。ざぶんざぶんと波の音が聞こえとてもすてきなところだったので、夜も朝も簡単に通じがあり、なにも問題なく旅行を楽しむことが出来ました。
  このことがあってから、不思議なくらい便秘しなくなったので、あのときの便秘の六日間の新記録はその後も破ることは出来ません。とうちゃんが言うには「ギネスブックに出そうか」などとひやかすけれど、恥ずかしいからここだけの話にしておいてね。

盲導犬情報ボックス

国際盲導犬学校連盟2001年年報より

国際盲導犬学校連盟から発行された年報によると、2001年1月1日現在で国際盲導犬学校連盟には26カ国76施設が加盟しています。前回の1999年年報が出た以降に新たに4施設が加盟したようですが、加盟施設のある国は、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、クロアチア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ニュージーランド、ノルウェイ、スロバキア、南アフリカ、スペイン、スェーデン、スイス、台湾、イギリス、アメリカと変わりはありません。
  2000年に各加盟施設で誕生した盲導犬とそのユーザーは、3,434ユニット。そのうちの2,502ユニットの中で、新規のユニットは1,176ユニット(47.0%)、代替えは1,329ユニット(53.1%)でした。1999年に誕生したのは2,626ユニット。そのうち新規は1,254ユニット(47.8%)、代替えは1,372ユニット(52.2%)。代替えの占める割合が50%前後というのは、日本だけの傾向ではないようです。
  訓練形態としては、訓練施設で指導を受けたのが1,602ユニット(64.2%)、訓練施設と自宅の両方で指導を受けたのが552ユニット(22.1%)、自宅で指導を受けたのが342ユニット(13.7%)となっています。
  2000年12月31日現在、加盟している26カ国76施設でパピーウォーキング中の犬が7,908頭。盲導犬とそのユーザーは、20,505ユニット。そのうちの約4.4%が日本人のユニットということになります。

編集後記

アメリカで衝撃的なテロが起きてもう1ヶ月が経とうとしています。世界貿易センタービルの71階から無事脱出した人たちの中にコロンビア人の盲導犬ユーザーもいたそうです。長い時間をかけて長く続く階段を降りながら、人々は互いに声を掛け合い励ましあった、との避難の様子も報道されていました。そして戦争が始まりました。1つの事実に対して立場が違えばこうも違うのか、という意見が連日報道されています。自分と違う主張に対して人はどこまで違いを認め寛大になれるのか。盲導犬同伴不可と言い切る人と互いにわかりあえることは永遠にないのかな。戦争も受け入れ拒否も、次元が違う話のようでも根っこにあるものは同じ、と言ってしまっては乱暴過ぎるでしょうか・・・。(久保)