『盲導犬情報』 第6号 〜NPO法人全国盲導犬施設連合会 情報誌〜

盲導犬情報 第6号



内容



盲導犬を持たない視覚障がい者を対象にしたアンケート調査報告(2)
盲導犬に関する調査委員会

 前号に引き続き、全国盲導犬施設連合会が事務局となって実施した「盲導犬を持たない視覚障がい者および盲導犬使用者団体を対象にしたアンケート調査」の結果をご報告します。
 この調査は、視覚障害者団体に所属、または視覚障害リハビリテーション施設を利用している、盲導犬を使用していない1級または2級の視覚障がい者を対象に実施したものです。調査期間は2010年1月〜3月。調査票を郵送または電子メールにて送付・回収し、有効回答274名、質問紙の半分以上が無回答の2名は無効回答としました。
 前号では盲導犬を持たない視覚障がい者を対象にした調査の概要をご報告しました。今号では、盲導犬を希望している回答者と希望していない回答者を比較した結果をご報告します。

5.盲導犬希望者と非希望者の比較

(1) 一般視覚障がい者の盲導犬使用希望状況(「盲導犬に関する調査」委員会(2000)−以下「盲導犬に関する調査」−との比較)

 調査の対象になった一般の視覚障がい者における盲導犬使用意向は、「今すぐ希望する」が4%、「将来希望する」が13%、一方、「以前は希望していたが、今は希望しない」は17%、「希望しない」は55%、「わからない」は9%となっていた。これらの結果は、「盲導犬に関する調査」の結果と類似していた(「盲導犬に関する調査」の結果では、「今すぐ希望する」が3%、「将来希望する」が16%、「希望しない」44%)。
 盲導犬使用希望状況を年齢別にみた結果では、40〜60代で「今すぐ持ちたい」人が4%以下にとどまるが、20代で21%となっている。約10年前は、高い年齢層でも盲導犬を希望する人が比較的多くいたが、今回の調査では、盲導犬を「今すぐ持ちたい」と考える人は若年層に多い傾向がみられた。
 盲導犬使用希望状況を受障歴別に割合でみた結果では、受障後5〜20年の人に「今すぐ持ちたい」との回答が比較的多くみられた(5年 7%、10年 4%、20年 10%)。障がいを受容し始めるとされている3〜5年後に、歩行手段として盲導犬が考えられる傾向があるといえる。

(2) 希望者と非希望者の比較(有意差のある項目)

 本調査では、盲導犬を「今すぐ希望する」「将来希望する」を選択した視覚障がい者を「希望者群」に、無回答を除いた上記2つ以外の項目を選択した視覚障がい者を「非希望者群」として、2群間で比較し、盲導犬貸与を阻害する要因について調べた。

a.視覚以外の障がいの有無

 視覚以外の障がいの有無状況との関連をみたところ、視覚障がいと聴覚障がいのある障がい者において、回答の偏りは有意であった。つまり重複障がい者のうち、視覚の他に聴覚障がいのある人は、より盲導犬を希望しやすかった。一方、聴覚障がい以外の障がいとの重複障がい者や、視覚以外の障がいが「なし」と回答した人では、グループ間に回答の偏りは見られず、重複障がいを理由に盲導犬を希望するかどうかを考えていないことが分かった。

 聴覚障がい(希望者11%/非希望者3% 以下、この順に記載)
 肢体不自由(4%/3%)
 内部障がい(4%/5%)
 その他(2%/2%)
 なし(80%/87%)

b.職業

 回答者の職業として、学生において、回答の偏りが有意であった。また、非希望者に比べ、希望者が上回るのは学生のみであった。今後の社会参加を考える時期でもある学生に、盲導犬の使用を希望することが多くみられた。

 経営者(31%/32%)
 被雇用者(18%/22%)
 主婦(11%/14%)
 学生(22%/6%)
 無職(18%/27%)

c.居住地域

「農漁山村」で希望者が有意に多くいることがわかった。本調査での回答者の82%が住宅街に居住していたが、有意差はみられなかった。

 繁華街(0%/7%)
 住宅街(78%/83%)
 農漁山村(22%/10%)

d.盲導犬を持つ際に考えられる利点

 盲導犬を持つ際に考えられる利点として、盲導犬希望者が有意に多く選択した項目は以下の12項目であった。

 項目1 安全に早く歩けるようになる(69%/48%)
 項目2 いつでも外出できる(73%/38%)
 項目3 行動範囲が広がる(82%/46%)
 項目4 外出のときのストレスが軽減される(67%/28%)
 項目5 通勤・通学・仕事がしやすくなる(47%/19%)
 項目6 日常生活が楽しくなる(71%/31%)
 項目7 生きがいを感じる(60%/19%)
 項目8 自立できる(49%/19%)
 項目9 盲導犬が身の回りの世話をしてくれる(7%/3%)
 項目12 孤独感の軽減(56%/33%)
 項目13 癒される(62%/43%)
 項目14 なし(2%/24%)
 逆に、
 項目10 交友関係が増える(38%/31%)
 項目11 体が健康になる(42%/27%)
 項目15 その他(0%/3%)
の3項目には、希望者と非希望者に有意差はなかった。

e.犬の飼育経験の有無

 犬の飼育経験が「ある」と回答する人は、希望者に多く見られた。
 ある(76%/48%)
 ない(24%/52%)

f.盲導犬を持つ際に考える問題点

 項目12「申し込み後の待機期間が長い」においては、有意に多くの希望者が選択し、項目7「犬が嫌い」、16「世話や手間がかかる」、20「なし」においては、有意に多くの非希望者が選択した。

 項目1 お金がかかる(53%/42%)
 項目2 盲導犬に頼りすぎて自立心がなくなる(16%/9%)
 項目3 家族への負担(33%/30%)
 項目4 周囲への配慮・周囲の反対(36%/30%)
 項目5 行動範囲が狭まる(4%/12%)
 項目6 家が狭い(38%/29%)
 項目7 犬が嫌い(4%/17%)
 項目8 犬の毛によるアレルギー(7%/12%)
 項目9 職場での受け入れ(18%/12%)
 項目10 マンションなど集合住宅での受け入れ(29%/22%)
 項目11 盲導犬が思い通りに動かない(20%/13%)
 項目12 盲導犬希望の申し込みをしたあとの待機期間が長い(36%/12%)
 項目13 盲導犬との歩行指導(共同訓練)を受ける時間的な余裕がない(33%/28%)
 項目14 自身の高齢・健康上の問題(11%/13%)
 項目15 盲導犬との離別や死別がつらい(51%/45%)
 項目16 盲導犬の世話や手間がかかる(44%/58%)
 項目17 盲導犬のにおいや毛などで家屋が汚れる(22%/31%)
 項目18 盲導犬のしつけに自信がない(27%/31%)
 項目19 無職なので盲導犬はもてない(7%/6%)
 項目20 なし(2%/11%)
 項目21 その他(2%/4%)

g.普段使用する情報源

 普段使用する情報源との関連をみると、テレビ、ラジオの2つの項目において、回答の偏りが有意であり、非希望者の方が希望者に比べ利用が多かった。

 テレビ(71%/81%)
 ラジオ(62%/74%)
 インターネット(64%/59%)
 新聞(11%/18%)
 雑誌(18%/16%)
 人づて(73%/68%)
 その他(13%/7%)

(3) 希望者と非希望者の比較(有意差のない項目)
a.視覚障がいの程度

 視覚障がいの程度との関連をみると、全ての回答項目において、両者、ほぼ同じ割合となった。視覚障がいの程度が、盲導犬使用希望の有無に関係していないことがわかった。

 全盲(51%/54%)
 弱視(16%/21%)
 弱視と視野狭窄(25%/21%)
 無回答(7%/5%)

b.同居者の有無

 回答者に同居者がいるかどうかについてみると、両者はほぼ同じ割合となり、同居者の有無が盲導犬使用希望の有無に関係していないことがわかった。

 いる(80%/77%)
 いない(18%/19%)

c.外出頻度

 週の外出頻度との関連をみると、5日以上と回答する人が非希望者でやや多く、2日以下と回答する人が非希望者でやや多かった。希望者の方が、外出頻度がやや多いことがわかったが、有意な差はみられなかった。

 5日以上(47%/40%)
 3、4日ほど(29%/30%)
 2日以下(24%/30%)
 無回答(0%/0%)

d.外出時のストレスレベル

 外出時のストレスレベルでの関連についてみると、両者の差に有意な差はみられなかったが、項目1「買い物をする時」、4「道路を横断する時」、9「遠出をする時」、11「人や物にぶつかった時」、また14「その他」において、希望者の方がやや多くみられた。

 項目1 買い物をする時(60%/50%)
 項目2 飲食店を利用する時(42%/40%)
 項目3 公共交通機関を利用する時(44%/48%)
 項目4 道路を横断する時(58%/47%)
 項目5 慣れないところへ一人で外出しなければならない時(69%/69%)
 項目6 一人で外出中にトイレに行きたくなった時(49%/54%)
 項目7 道に迷った時(60%/66%)
 項目8 雨の日に外を歩かなければならない時(53%/49%)
 項目9 遠出をする時(40%/32%)
 項目10 援助依頼をする時(24%/27%)
 項目11 人や物にぶつかった時(53%/41%)
 項目12 手引き者と外出する時(11%/10%)
 項目13 特にない(9%/5%)
 項目14 その他(11%/6%)

(4)QOLにおける比較

 盲導犬希望者と非希望者の2群間のQOL得点を比較することにより、生活の質がどのように盲導犬使用希望有無に影響を与えているかを調べた。その結果、項目6「障がいを受けたことで新たに得たものがある」、項目7「病気や障がいがあっても自分に誇りが持てる」、項目11「障がいを受容しているという自覚がある」といった生き方尺度に関して、盲導犬希望者の方が非希望者よりも強く感じていた。

 項目1 健康である(4.0/3.9)
 項目2 イライラやストレスなどの精神的な緊張が少ない(3.3/3.3)
 項目3 自分の病気や障害について、理解してくれる人がいる(4.3/4.1)
 項目4 自分を支えてくれる家族や仲間がいる(4.5/4.4)
 項目5 家庭内の争い事が少ない(4.1/4.0)
 項目6 障害を受けたことで新たに得たものがあると思える(4.4/3.7)
 項目7 病気や障害があっても、自分に誇りがもてる(4.1/3.6)
 項目8 人から尊敬されている(3.1/2.9)
 項目9 老後に対する不安がない(2.9/2.5)
 項目10 人の役に立っている(3.4/3.2)
 項目11 障害を受容しているという自覚がある(4.2/3.8)
 項目12 通勤・通学が快適にできる(3.0/2.8)
 項目13 道路などが視覚障害者にとって安心して外出できるように配慮されている(2.1/2.1)
 項目14 やりがいのある仕事や、自分に適した仕事ができる(3.1/3.1)
 項目15 ボランティアなどの社会活動に参加している(2.5/2.8)
 項目16 熱中できる趣味がある(3.8/3.8)

6.まとめ
(1) 全体像

 盲導犬をもたない視覚障がい者が利用する情報源として、新聞や雑誌よりも、テレビやラジオの音声によるものや人づてに聞く場合が多くみられた。インターネットではパソコンに限らず、携帯電話からも情報を得る人が多いことが自由記述や補足説明から分かった。「盲導犬に関する調査」では、盲導犬に関心を持つきっかけになった情報源において、盲導犬使用者に次いで、一般マスコミが高い割合を占めていた。テレビやラジオといったマスコミは、広い啓発につながると考えられる。また、今後の対策として、盲導犬使用者の講演だけでなく、盲導犬を希望する人が個人的に相談等のできる環境を整えていくと同時に、多くの盲導犬使用者が所属している使用者団体と盲導犬育成団体が共同で啓発に取り組む活動が重要となると考えられる。
 盲導犬の既知事項において、多くの項目で6割以上の回答者が盲導犬についてよく知っていた。このことは、盲導犬について知った上で、盲導犬を持たないことを選択する人が多くいることを示している。一方、盲導犬を取得した後の相談や補助等のアフターケアがあることは知らない人が多かったので、今後、アフターケアのさらなる充実やその紹介を計ることで盲導犬の普及につながる可能性がある。
 外出状況では、約7割の人が週3,4日以上外出すること、また、白杖を使った単独歩行をする人が8割以上いることがわかった。しかし、歩行訓練の有無においては、あると回答する人は約半分であった。盲導犬の利点に関する問いに対し、歩行に関する回答をする人が多くみられ、盲導犬がいれば、歩行の際でも不安感が軽減され、家族やヘルパーがいなくても好きな時に好きな場所へ行けるというように外出においては前向きに考えていることがわかった。また、日常生活では孤独感が薄れ、癒しになるといったペットの効果も考えられていた。「盲導犬が身の回りの世話をしてくれる」と間違った回答する人は非常に少なく、逆に盲導犬の世話をすると考える人が多かった。
 盲導犬使用の問題点を強く感じる人は少なかったが、盲導犬の世話やしつけに関する不安はやや多く、このことは盲導犬使用者にも同じことがみられる。自由記述において、盲導犬使用者への要望の内容から、盲導犬の管理が不充分と周りから感じられたり、歩行の際、盲導犬だけでなく他者の手引きを同時に利用する使用者もいた。「盲導犬に関する調査」でも、盲導犬を希望しない人の理由として「世話が大変」といった項目がやや高く、この10年で盲導犬の世話やしつけに関するイメージは変わっていないと考えられる。不安とされている排尿・排便の処理については、盲導犬は排尿・排便は決められた号令、時間、場所でするよう訓練されていて、外出の際も、あらかじめ袋のついたベルトをつける簡単な方法も提案されている。盲導犬が仕事中には排尿・排便をしないよう、盲導犬の質の向上、使用者が時間と場所を管理する等のコントロール、そして盲導犬も動物であることの周囲の理解が必要である。また、世話に関する詳しい情報を貸与前や啓発活動の際に資料やパンフレットとして配布し紹介することも使用者のマナーと盲導犬のコントロールの改善、周囲の啓発につながると考えられる。一方、世話を使用者が行うことは、使用者が犬の主人としての役割感を獲得し、自尊心・自立心が向上する効果につながるとされていて、積極的に盲導犬の世話は行われるべきである。しかし、本調査での対象者は50代、60代が多く高齢化の背景の中、盲導犬の世話を難しいと考える面もあろう。まずは、視覚障がい者が日常生活動作をよりスムーズにできるような工夫をする必要がある。それに加え、盲導犬の世話に慣れるまでの間は、シャンプー等の手入れを家族や盲導犬協会で共に行う等といった盲導犬の世話のサポートや工夫、情報提供をすることが、今後、重要だろう。本調査でも、盲導犬希望者の約8割が、同居者がいると回答していた。

(2) 盲導犬希望者と非希望者の比較

 本調査では、受障歴10年になる人が最も多くみられた。中でも、受障後5〜20年で「今すぐ盲導犬を希望する」と回答する人が多くみられ、先天性の視覚障がい者は盲導犬を希望しない傾向があることが分かった。
 今後の社会参加を考える時期でもある学生に、盲導犬を希望する傾向がみられることから、今後、学生を対象に歩行体験や啓発活動を盲学校等で行うとよいだろう。しかし、学生がすぐに盲導犬を使用するとは限らないので、長期的な取り組みが必要である。
 盲導犬を希望する人には、貸与申込みをした後の待機期間が長いといった印象を持つ人がいた。今後そのような印象を取り除く啓発を進める必要がある。待機期間の短縮に加え、待機期間を充実した時間に変えることもできる。例えば、共同訓練中の座学や使用者としての基本的なマナー等を予習できるように教材で配布したり、通信教育したりする方法が考えられる。自由記述には、盲導犬使用者のマナーの改善に対する意見が多くみられ、上記の方法によって、今後、使用者のマナー向上への効果も期待できる。
 また、盲導犬希望者の77%に犬の飼育経験があった。そのために盲導犬のアレルギーや匂いや毛を気に掛ける人は少なかった。しかし、盲導犬との離別や死別が辛いと感じる人も多く、心理的サポートの充実が必要だろう。「盲導犬に関する調査」においても、盲導犬使用者の相談窓口の設置が必要とされていたが、盲導犬使用者の心のケアについては専門家がいない。しかし、ペットロスでも「話を聞いてあげること」が重要とされているように、専門家に限らず、同じ立場である使用者と話すことも重要である。盲導犬使用者団体では、このような活動をしている団体もある。しかし、団体に所属することを考えない人もいるため、そのような人には協会からのサポートを充実させる必要がある。
 本調査の対象者の居住地域は住宅街がほとんどを占めていて、農漁山村に住む人は約1割であった。しかし、盲導犬使用希望別にみると農漁山村においてのみ、盲導犬希望者の方が非希望者より多い結果となった。今後、交通が不便でもある農漁山村での盲導犬の使用対策を進めていくことが重要になるだろう。
 本調査で、外出頻度が週に2日以下と答える人が30%である一方、「盲導犬に関する調査」では、ほとんど外出しないと答える人が4%と少なく、10年前に比べて差があった。また、希望者と非希望者の間には外出頻度に有意差はみられなかった。しかし、盲導犬に関する調査と本調査で、盲導犬を希望する人の割合はほぼ同じ結果となり、外出頻度は盲導犬使用希望に関係していなかった。
 外出時のストレスにおいて、買い物をする時、道路を横断する時、遠出をする時、人や物にぶつかった時に希望者でストレスを感じる人がやや多かった。「盲導犬に関する調査」では、盲導犬現使用者の88%が盲導犬を使用することによって安全に速く歩けるようになったという報告があり、盲導犬との歩行によって、上記の項目におけるストレスが軽減されることが予想される。
 盲導犬希望者は非希望者に比べて、障がいを受容し、人生を前向きにとらえていた。石上(2005)によって行われた盲導犬使用時と白杖歩行時のQOLを比較した調査結果でも、本調査で有意差のみられた「障がいを受けたことで新たに得たものがある」、「病気や障がいがあっても自分に誇りが持てる」、「障がいを受容しているという自覚がある」の3項目では、盲導犬使用時の生活の質の方が白杖歩行時より高かった。今回の調査結果から、上記の3項目においては、盲導犬使用によってだけでなく、盲導犬の取得を考え始める時期から、生き方に対する意識が違ってくることが分かった。つまり、対策として盲導犬使用を単に勧めるだけでなく、その前段階として、視覚障がい者の生き方・考え方を向上させる必要がある。障がいのある現状を受け入れた後に、人生に対して前向きな姿勢を持たせることで盲導犬使用を考える視覚障がい者は増えることから、今後、盲導犬の啓発にとどまらず、視覚障がい者のカウンセリングや教育といった面にもサポートを充実させることが重要であろう。このことは、その後の実際に盲導犬を使用する生活が、より充実したものになることにもつながってくる。

道路交通法施行規則の改正について

 ハーネスは、盲導犬の体に装着するもので、盲導犬の動きを盲導犬ユーザーに的確に伝えるために必要なものです。各盲導犬育成団体では、それぞれ馬具やカバンなど皮革製品を扱っている業者に依頼して作っていることが多いようです。ハーネスの胴輪とハンドルの接合部分やジョイントの材質や種類、胴輪の皮の幅など、若干のバリエーションはありますが、大きな形状の違いはありません。
 ほとんどのハーネスは、ハンドルを握ると手の甲が進行方向を向くように作られています。また、ハンドルの位置は人の太ももから横に10〜15センチ離れた位置になります。これは、ハーネスが左右対称の設計で、ハンドルは犬の背中の真上に来るようになっているからです。
 試しに、その場で直立して、両手を自然にだらんと垂らしてみてください。人の手の甲は、進行方向に対して45度外側を向いています。しかも、手は太もものすぐ横にあります。腕をねじって手の甲を進行方向に向け、さらに太ももの10センチ外側でこぶしを維持するのが、どれだけ不自然な体勢かおわかりでしょう。
 『日本補助犬科学研究 vol.3』に掲載された飯島浩らの事例研究「盲導犬ハーネスの改良」によると、盲導犬訓練士を対象にしたアンケート調査で、67.4%の人が肩、手首、腰、肘に違和感を感じたことがある、と回答しています。そして、ハーネスのハンドルの持ち手部分をTの字型にしたものや、三角形にしたものを試作し、試作評価の結果を発表しました。
 このようにハーネスの形状に改良が試みられるようになってきていますが、このハーネスの形状は、道路交通法施行規則で決められていて、その第五条の二「盲導犬の用具」という項目の中で、「令第八条第二項 の内閣府令で定める用具は、白色又は黄色の別図の形状のものとする」と図示されていました。  そこで、2010年12月17日に同規則が改正され、「盲導犬使用者にかかる負担の軽減及び利便性の向上を図るため、ハーネスの形状について柔軟化」されることになりました。改正点について、以下に掲載します。

【道路交通法施行規則】
(盲導犬の用具)
別図 (第五条の二関係)
 (墨字版には図を掲載しています。図はハーネスの横から見た状態と前から見た状態の2つが描かれています。胴輪部の幅はそれぞれ2.5センチ以上、前から見た図の両前足の間を通る部分は2.0センチ以上と図示されています。また、図の下には備考として、以下の説明文が掲載されています)

  1. 取手部については、目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。)が把持する部分(盲導犬の使用時において、当該者が確実に把持することができ、かつ、取手部から容易に外れない構造のものに限る。)を更に別に取り付けることができる。
  2. 胴輪部のうち盲導犬の両前肢の間を通す部分については、備えないことができる。
  3. 図示の長さの単位は、センチメートルとする。

盲導犬ユーザーのコーナー

ありがとう。心にヒール

宮城県 小野寺 明美

 盲導犬は視覚障がい者の歩行手段というだけではなく、ユーザーの私達に様々なメリットをもたらしてくれるのを多くの皆さんが経験しているのではないでしょうか。私もその一人なのだと思っています。盲導犬のオルクが傍らにいてくれるだけで楽しかったり、元気が出たり勇気が湧いてきたり…。そうして、「自分自身を好きになれた」と言っても決して大げさではありません。

 オルクは私の傍らにヒール(ユーザーの脇のポジションに付くこと)すると同時に、私の心にもしっかりとヒールしてくれたのです。見えなくなって家から一歩踏み出すこともおっくうに感じて、家に閉じこもりがちだった私に、一人で外出する勇気と喜びを教えてくれたのです。自由にもっと色々な所に行ってみたいという意欲も湧いてきました。そうして盲導犬と一緒に歩く面白さ、盲導犬の素晴らしさを実感していきました。

 オルクと歩き始めて3年が過ぎた頃、「ボランティアを受けるばかりでなく、視覚に障がいがある私にもできるボランティアはないだろうか… 」そんな風に思うようになって心に留まったのが「ピア・カウンセリング」でした。ピア・カウンセリングを学べる講座を探して、オルクと一緒に県外のあちこちに新幹線等で出掛けて行き、約100時間近く受講することができました。

 視覚障がい者は私だけという講座が主でしたが、オルクがいれば心細くはありません。宿泊形式の講座で、ビジネスホテルにオルクと二人で宿泊をしながら、会場まで通う三泊四日等の講座は、午前9時30分から午後8時までというハードな日程にもかかわらず、オルクはいつも私が終わるのをずっとずっと待っていてくれたのです。私がチャレンジしたいと思ったことを、「見えないから…」、「一人で歩くのが怖いから…」、そんな理由で無理だろうと自分の気持ちを押し殺し、諦めることなく、思い通りに実現でき達成できたことに、何とも言えない爽快感と新鮮な気持ちを味わうことができました。

 それはオルクがいてくれる安心感がすべてもたらしてくれたこと。盲導犬のオルクと出会うことが無かったら、幼い頃から弱視で視覚に障がいがあった私には、このような経験を味わうことは一生無かったのではないかと思ったくらいです。オルクには一緒に歩くたびに感謝をする毎日でした。毎日、言葉以上の「ありがとう」を伝えたくてギュっと抱きしめていました。

 ピア・カウンセリングの三つの目的として、「自己信頼の回復」、「人間関係の再構築」、「社会の変革」があります。もしかしたら、オルクは私の心に寄り添って心の中の声を聞いてくれた、私のカウンセラーだったのかもしれません。

 そのオルクも時期が巡り、盲導犬の役目を終えました。私の傍らにはもういません。悪い夢をみているのではないかと何度も否定してみましたがこれは現実です。「ありがとう。オルクはもう私のことを待たなくていいんだよ…。オルクのことを待っていてくれた家族の方々に沢山可愛がってもらって、のんびりと楽しいお散歩をしながら、元気に一日でも長く生きて欲しい… 」と祈るような思いで今は過ごしています。

 オルクが教えてくれた盲導犬の素晴らしさは忘れることはできません。これからも私は、ずっと傍らに盲導犬達のいる生活を続けたいと思っています。オルクと一緒に築いてきた大切なものはいつも私の胸の中に。私はこれから次の人生のステップを次の盲導犬の子と一緒に踏み出すつもりです。ピア・カウンセラーとして傾聴をさせていただくために県難病相談支援センターに通います。ずっとずっと、「心に寄り添うリレー」を続けたいと思っています。

盲導犬情報ボックス(1)

2010年に発行された盲導犬に関する文献

 2010年に発行された盲導犬について書かれた書籍や盲導犬が登場する書籍、論文等を調べてみました。ただ、大学や学会などで発表された論文については、なかなか把握できなかったので、他の文献をご存じの方はぜひお知らせください。

【書籍】

◎盲導犬を主題にした書籍
「がんばれブライアン」(新装版) 桑原崇寿、梶川卓郎(小学館) 2010.3
「北海道盲導犬物語 ― 人を支える犬たちと犬を支える人々と」 菅井亜沙子(長崎出版) 2010.2 〈点字データ着手・テープ・音声デイジー〉
「ずっと一緒に ― 盲導犬が老いたとき」 田中真由美(ぶんか社) 2010.2
「盲導犬サ−ブ 世の中への扉」 手島悠介(講談社) 2010.6  〈テープ着手・音声デイジー着手〉
「回想のロイド ― 盲導犬との五十年」 河相洌(文芸社) 2010.7 〈点字データ〉
「盲導犬になれなかったスキッパ−」 藤崎順子(文藝春秋) 2010.12 〈点字データ着手・音声デイジー着手〉

◎一部盲導犬が登場するフィクション
「1/2の騎士」(講談社文庫) 初野晴(講談社) 2010.1 〈点字データ着手・音声デイジー着手〉
「ただひとり、あなただけ」(ハ−レクイン・クラシックス) ル−シ−・ゴ−ドン(ハーレクイン) 2010.10

【コミック】

「ハッピー!32」 波間 信子(講談社) 2010.2
「ハッピー!33」 波間 信子(講談社) 2010.9
「ナオ ゴ− ストレ−ト 盲導犬歩行指導員 2」 山本康人(双葉社) 2010.2
「ナオ ゴ− ストレ−ト 盲導犬歩行指導員 3」 山本康人(双葉社) 2010.8
「ナオ ゴ− ストレ−ト 盲導犬歩行指導員 4」 山本康人(双葉社) 2010.11

【絵本】

「リタイア犬ポリ−の明日 いのちいきいきシリ−ズ」 日野多香子、福田岩緒(佼成出版社) 2010.12
「もうどうけん ふりふりとまり」 セアまり、はまのゆか(幻冬舎エデュケーション) 2010.9 〈点字データ〉

【歌集】

「たまずさ」 松本ますみ(北国新聞社) 2010.10

【その他】

「しらべよう!はたらく犬たち 1 盲導犬・聴導犬・介助犬−体の不自由な人を助ける犬−」 日本盲導犬協会他・監修(ポプラ社) 2010.3

【論文】

「宿泊施設における身体障害者補助犬同伴者受入に関する調査」 石川俊介(ヒトと動物の関係学会誌 vol.25) 2010.3
「地域の白杖歩行訓練士と盲導犬訓練センターの連携の可能性」 福井良太他(第18回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集)他 2010.4
「盲導犬取得に対する視覚リハの影響」 菅原美保他(第18回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集) 2010.4
「国産盲導犬第1号使用者 河相洌」 斯波千秋(視覚障害 no.266) 2010.6

盲導犬情報ボックス(2)

災害に際して

 東北地方で大きな地震が起こり、その後、東北・関東・東海・北陸と各地で地震が頻発しています。避難所で生活されている方も多くおられます。
 ところで、皆さんは人間用の防災袋の他に、盲導犬のための防災袋を用意されていますか? ペット用防災グッズとして、メーカーからも5000円ぐらいで非常持出袋が販売されています。防災袋の中には、概ね次のような物がセットされているようです。

  1. フード(最低3〜5日分)
  2. ミネラルウォーターまたは保存水
  3. 予備のリード
  4. バスタオル、タオル(犬の体を拭いたり、ベッド代わりにもなる)
  5. 排泄物の処理袋
  6. 塩素系家庭用漂白剤(排泄物の臭い消しのため)
  7. 犬用靴(ガラスの破片などが落ちている道路の上を歩く時、肉球を傷つけないように保護するため)
  8. 食器・折りたたみ式水タンク
  9. アルミマット(キャンプなどでよく使われる物)または防水シート

 なお、今回の震災でも、被災地への電話が繋がりにくい状況になりました。また、電話が繋がるようになってからは、何人もの親戚・知人からかかってくる無事を確認する電話に受け答えすることに、精神的に辛い思いをされている被災者もおられるようです。

 テレビやラジオ、新聞などを通じて、災害用伝言板サービスの利用についてアナウンスされています。これは、被災者と直接通話できなくても、被災された人が伝言板にメッセージを登録していれば、伝言板にその人の電話番号を入力すると、そのメッセージが確認できるサービスです。

 例えば、被災した人が自分の携帯電話から伝言板サービスに登録すると、「無事です」「被害があります」「自宅に居ます」「避難所に居ます」といった項目にチェックを入れることができ、短いながらもコメントを入れたメールが送信できるそうです。被災された方がこの登録をしていると、安否を確認したい人が伝言板サービスから被災された方の携帯電話番号を入力して検索ボタンを押すと、メッセージを確認することができます。また、登録していない被災者に対しては、安否を確認したい人から「登録お願いメール」を送ることもできるようです。

 各携帯電話会社だけでなく、固定電話やパソコンでも同様のサービスを利用できます。いざという時に使えるサービスと備えは日頃からチェックしておきましょう。

NPO法人全国盲導犬施設連合会からのお知らせ

(1)2010年度資格認定事業の実施状況

 NPO法人 全国盲導犬施設連合会では、盲導犬希望者が全国どこの施設から盲導犬の貸与を受けてもほぼ一定水準の盲導犬やサービスの提供が得られるよう、盲導犬を育成する盲導犬訓練士・歩行指導員の資格認定事業を2007年度より行っております。
 今年度は、筆記・実技試験を行った結果、9名の盲導犬訓練士、5名の歩行指導員の資格認定を行いました。

(2)2011年度のポスターと『デュエット』について

 全国盲導犬普及キャンペーンの一環として、毎年ポスターと『デュエット』という機関誌を作成・発行しています。

 2011年度のポスターは、上半分にラブラドールが2頭横並びでダウンしています。左が赤いコートを着てハーネスをつけた白っぽいラブラドールで、右が緑のコートを着てハーネスをつけた茶色っぽいラブラドールです。下半分は、赤い背景に「知ること それは応援すること」と緑色の文字でキャッチコピーが書いてあります。その下には、『目の不自由な方が安全に、そして快適に歩けるよう手伝いをする盲導犬。「知りたい」・・・まずはそのお気持ちがボランティアです。盲導犬を必要としている人が、まだまだたくさんいます。』と書いてあります。遠くからでもよく目立つ色合いの可愛いポスターです。

 機関誌『デュエット』の表紙は、ポスターと同じ写真になっています。『デュエット』はおかげさまで20号を迎えましたので、これを記念して盲導犬の歴史について特集し、各盲導犬育成団体の設立時期を年表形式で紹介、当時の写真を掲載するなど、これまでの盲導犬事業の歩みを振り返る内容となっています。また、1993年から2010年までの日本国内の盲導犬実働数の変化を棒グラフで表しました。その他、盲導犬ユーザーからのメッセージのページや、盲導犬すごろくのページもあります。すごろくは、見開き2ページ分を使い、生まれてから共同訓練を終えて盲導犬としての第一歩を踏み出すまでを、ゲームとして楽しみながら知ってもらえるようになっています。

 これらの機関誌・ポスターは、全国盲導犬施設連合会の募金箱を置いてくださっているスーパーなどで手にすることができます。機関誌は無料で配布しておりますが、置いてあるお店が近くにない場合は、連合会事務局(電話:03-5367-9770)または、連合会加盟施設に問い合わせてください。なお、郵送を希望される場合は、郵送料を申し受けることになりますが、ご了承くださいますようお願い申しあげます。

前号の訂正

『盲導犬情報』第5号の記載に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

1. 補助犬育成補助事業の実施状況について

 前号に掲載しました記事の中で、群馬県の実施している補助犬に関する助成施策についての記載に誤りがありました。群馬県では、予防注射料の減免、補助犬診療費・薬代の助成、飼育用品の購入費用の助成について実施していない、とのことです。
 第5号に掲載した都道府県の実施している助成施策の実施状況について、訂正したものを改めて以下に掲載いたします。

A. 都道府県

(1)登録手数料、予防注射料等の減免
 茨城県

(2)予防注射料の減免
 茨城県
 福井県

(3)上記以外の補助犬診療費・薬代の助成
 福井県

(4)餌代の助成
 なし

(5)補助犬の訓練に係る旅費や補助犬取得に係る費用の助成
 鳥取県

(6)飼育用品の購入費用の助成
 なし

(7)その他
 山形県:獣医師会が補助事業を行っている
 埼玉県:補助犬の健康管理及び疾病等に要した費用の一部を助成
 神奈川県:獣医師会が会員診療所における補助犬の診療について、診療費の一部を助成
 新潟県:獣医師会が予防注射料の減免を実施
 長野県:県の動物愛護センターにおいて、補助犬の定期健康診断を希望者に無料で行っている(ドッグドッグ事業)
 岐阜県:市町及び獣医師会において飼育費や注射料の助成を実施している
 静岡県:補助犬使用者団体による助成制度で補助犬診療費・薬代の助成を行っている
       獣医師会の協力で予防注射の減免を行っている
       市町事業で狂犬病予防法に基づく飼犬登録手数料の減免を行っている
 鳥取県:予防接種料の助成

2. 日本の盲導犬使用者数について

 2010年3月末現在の盲導犬実働数のうち、国家公安委員会指定の盲導犬育成団体が育成した盲導犬頭数を1073頭とご紹介しましたが、正しくは「1070頭」でした。したがって、海外などの団体が育成した盲導犬で認定された盲導犬3頭を合計すると、実働数は1076頭ではなく「1073頭」です。
 なお、日本の盲導犬使用者数は1094人で、変更はありません。

編集後記

 今号の編集作業をしている最中に、東北地方太平洋沖地震のニュースが入ってきました。日を追って報道される震災の爪痕のあまりの酷さに、被害に遭われた方々にかける言葉も見つからない、というのが正直なところです。盲導犬といっしょに避難所生活を送っている方もきっとおられることでしょう。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りすると共に一日も早い復興を願うばかりです。(久保)